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【上級】世界最高温度での超伝導観測に成功-ドイツの研究グループ

2016/06/29

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一昨年の末、世界中の物理学者に衝撃が走りました。

ドイツの研究グループが、高圧下の固体硫化水素において世界最高温度190K(-83℃)で超伝導を観測したとの報告が上がったのです。その一年ほどのちの2015年9月には、同じグループからさらに高温の203K(-70℃)での報告がNature誌に出版されました。

この発見に絡めて超伝導とは何か、その意義、歴史などについてお話ししたいと思います。

超伝導とは

超伝導とは「①電気抵抗ゼロ」「②完全反磁性」の二つの特徴で説明される現象です。

電気抵抗ゼロ?

電気抵抗は、理科で習った(電圧)÷(電流)のことで、これがゼロということは微弱な電圧で巨大電流を生み出せることを意味します。電線などによる送電では、この電気抵抗に比例した量だけエネルギーが失われていくことが知られています。

このため、超伝導体で導線を作ることで、例えばアフリカの砂漠に巨大な太陽パネルを設置し世界中にエネルギー消費なく電気を送るみたいなことが可能になると期待されているのです。

図2

完全反磁性?

完全反磁性とは、超伝導体の中には磁場が侵入しないという効果です。

この効果は外から掛けられた磁場に反応して渦状の誘導電流が発生し、この電流による磁場が外部磁場を打ち消すため、と説明できます。SC2

特に発見者の名を冠して「マイスナー効果」とも呼ばれています。

このため、超伝導体は磁石に反発し、磁気浮上を起こします。

ちょっと地味な効果ですが、抵抗ゼロよりも根源的な現象であることが知られていて、現在ではこのマイスナー効果が観測されない限り、超伝導状態であると認められないようになっています。

冒頭で紹介した2014年末の論文と2015年9月の論文を比較してみると、後者ではマイスナー効果に関する実験結果が追加されています。

前者の論文ではゼロ抵抗の実験結果しか示されていませんでしたが、マイスナー効果の結果を追加することでNature誌の掲載に至ったのではないかと推測できますね。

 

超伝導の歴史

このように実用上非常に魅力的な超伝導現象は、今から100年ほど前の1911年、オランダの物理学者カメリオン・オンネスによって発見されました。

彼は水銀を4.2K(ケルビン)(-269℃)まで冷やすことで電気抵抗が急激にゼロになることを発見したのです。この、超伝導が現れる温度のことを転移温度とか臨界温度と呼んでいます。

 

超伝導のメカニズムがある程度明らかになったのは46年も後の1957年、アメリカのバーディーン、クーパー、シュリーファーの三人組によってです。

彼らの理論(3人の頭文字をとってBCS理論)によれば、超伝導の起源は「固体中の結晶の格子振動の影響によって、電子間に引力が働くため」であるということでした。

 

微視的な理論の解明により、研究はさらに加速します。

結晶の格子振動が大きな金属が超伝導になりやすい!と分かったわけですから。

 

ここで少し脱線….

3人の天才によって発表された超伝導の微視的理論であるBCS理論は、超伝導業界だけでなく一見あまり関連のなさそうな素粒子物理学にも大きな影響を与えました。

2008年にノーベル物理学賞を受賞し、先日惜しまれながらも逝去された、日本出身の南部陽一郎先生は完成直後のBCS理論に触れ、そこではゲージ対称性というものが不自然に破れていることに目を付けました。

ゲージとは電場や磁場を表現する人工的なものさし(gauge)のことで、もちろん普通の物質中や真空はではどんなものさしを使って電場や磁場を表現してもその実態は変わらないという対称性、すなわちゲージ対称性が存在しています。

ところがBCS理論で記述される超伝導体中ではこの対称性が存在しなかったのです。

南部先生はこの対称性の破れに注目し、素粒子理論への応用を始めたのでした。

今日「自発的対称性の破れ」と呼ばれる南部理論は、粒子の質量の起源がヒッグス場と言われるものの自発的対称性の破れであることを導きました。

ヒッグスと言えば2012年に発見され翌年ノーベル賞を与えられたのも記憶に新しいですね。

BCS理論は超伝導を説明しただけでなく、自発的対称性の破れを説明する一つの好例にもなっていたということです。

超伝導と素粒子の質量の起源、一見何ら関係のなさそうな現象に、深いところで普遍的な理論があるというのは理論物理の美しいところですね。

 

BCSの壁

…さて話を戻しましょう。

超伝導の微視的な起源が結晶中の格子振動であると突き止めたBCS理論ですが、大きな問題もありました。

結晶の格子振動は通常の固体中ではそれほど大きくないため、BCS理論の範疇では超伝導転移温度は40K(-233℃)程度までしか上昇しないであろうことが指摘されたのです。

これをBCSの壁と呼んでいます。

再び、やはり室温で超伝導なんて無理じゃないか…となってしまったわけです壁1

 

最近の超伝導研究の潮流

ところが、1986年に見つかった銅酸化物系の物質群や、2008年に東京工業大学の細野秀雄先生のグループが発見した鉄化合物系は、なんとBCSの壁をいともたやすく破ってしまったのです。壁2

今回はあまり詳しく触れませんが、近年の超伝導研究では転移温度が高い銅酸化物系、鉄系などの非従来型の超伝導に興味が集中しており、BCS理論を超えた超伝導体の理解を目指しているのです。

 

2014年記録更新

さて、前置きが長くなりましたが、冒頭で述べた固体硫化水素における高温 203K(-70℃)での超伝導発見について説明したいと思います。

硫化水素(H2S)と言えば中学校の理科の実験で作ったことがあるかと思いますが、常温常圧では腐卵臭のする分子性の気体です。

これを200K以下の温度に冷やすことで液化し、高圧をかけて固体化すると、およそ90万気圧ほどで金属的にふるまうそうです。

更に150万気圧程度の超高圧状態で電気抵抗の温度依存性を測定すると、203Kで超伝導特有のゼロ抵抗状態が確認されました。

 

結局なにがすごいの?

この研究の素晴らしいところは、もちろん室温に大きく迫る転移温度の向上ですが、もうひとつ面白いところは、近年注目されている非従来型の超伝導ではなく、BCS理論、すなわち結晶の格子振動によって説明ができる従来型のメカニズムによる超伝導であるというところです。

 

また、去年8月には、PH3 という新たな軽元素からなる分子性気体において、200万気圧で100K程度の転移温度が確認されていますので、今後類似の気体を高圧で固化して超伝導!という動きはさらに広がっていくことが期待されます。

高圧での高温超伝導、今後の動向に目が離せませんね。

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