grapheneeyecatch3

【上級】グラフェンを用いたスピン流デバイス

2016/07/16

Pocket
LINEで送る

今年の5月、グラフェンを用いてスピン流を電気的に検出できるという研究が、京都大学、九州大学、大阪大学、早稲田大学のグループによって報告されました。

こちら

グラフェンスピン流を組み合わせることで超高速かつ超省エネのデバイスへの応用が期待できます。

今回はグラフェンとは?スピン流とは?といったところからお話を。

 

グラフェンって?

グラフェンとは、炭素原子がハチの巣格子状に並んだ、完全に二次元の物質です。

2004年にマンチェスター大学のアンドレイ・ガイムとコンスタンチン・ノボセロフらによっては初めて発見され、基礎物理学、デバイスへの応用への期待から現在でも爆発的な研究がなされている物質です。

実はグラフェンは鉛筆の芯の素材であるグラファイトから粘着テープを使ってうまく一層だけ剥がすことで作ることができる、意外と身近な物質なのです。

https://en.wikipedia.org/wiki/Graphene

https://en.wikipedia.org/wiki/Graphene

グラフェンの凄さは機械的な強度、伸縮性、熱伝導度、光吸収率の高さなど様々ありますが、最も特筆すべきはグラフェンの中では電子が非常に動きやすいことです。

電子の動きやすさ(易動度)は現代のエレクトロニクスの根幹をなすシリコンに比べても100倍以上であることが知られており、省エネルギーで高速なデバイスへの応用が期待されています。

 

スピントロニクス = スピン + エレクトロニクス

次に電子のスピンについてです。

スピンとは電子の自転運動に対応するもので、電荷をもった電子が自転することで、電磁石のように磁力を持ちます

実は現在使われている磁石の起源はすべてこの電子のスピンが多数集まったものなのです。物質の中の電子のスピンの方向が揃うと大きな磁力を持つ磁石になるというわけです。

すなわち、電子は電荷をもつだけでなく、それ自身が非常に小さな磁石でもあるのです。

spin

電子のスピンは磁石と同じ。便宜上時計回りのことを上向きスピン、反時計回りのことを下向きスピンとも呼ぶ。

現代のエレクトロニクス=electron(電子)+ics では、電子の持つ電荷のみを活用して、電流の大きさで0,1の信号を生み出し、情報処理をしています。

ですが、電流が流れるところにはジュール熱が必ず発生し、エネルギーが熱として無駄に消費されているのです。

この問題を解決しうると言われているのが、スピントロニクスと呼ばれる研究分野です。

スピントロニクスという言葉はスピンとエレクトロニクスから作られた造語で、電子の電荷だけでなく、スピンを用いたデバイスを作るぞ!という試みです。

スピントロニクスデバイスにおいて大きな役割を果たすのがスピン流、すなわちスピンの流れです。エレクトロニクスにおいて電流(電荷の流れ)が主役だったのと同じですね。

特に、電流を伴わずにスピンだけが流れる、純スピン流を作り出すことができれば、ジュール熱の発生しない究極の省エネデバイスが完成すると期待されます。

spincurrent

さて、本題

今回の研究で成し遂げられたことは、注目の新素材グラフェン中に、スピン流を注入し、さらにはスピン流が注入されたことを電気信号として検出できた、ということです。

 

スピン流の注入には、磁石を張り付けてマイクロ波を当てる、「スピンポンピング」という手法が採られました。

簡単にいうと、磁石からグラフェンへまさにポンプのようにスピン流を供給していく方法です。

 

スピン流の検出には、「逆スピンホール効果」と呼ばれる現象が用いられました。これはスピン流が物質中で電流へと変換される効果です。

これは図のように、スピンの向きに応じて逆方向に電子を曲げる作用に由来しています。

この効果によってスピン流に由来する信号を電流や電圧といった電気信号として検出することが可能になります。

ISHE1

 

ISHE2

 

夢の省エネデバイスへ?

電子が非常に高速で動くことができるグラフェンという舞台にエネルギー損失の無いスピン流を注入し、検出できたという成果は、スピントロニクスデバイスへの応用にとって非常に意義のあるものです。

グラフェンもスピントロニクスも比較的新しく、爆発的に進歩しつつある研究対象ですので、ひょっとして近い将来、超高速超省エネのデバイスが完成するかもしれません。

 

  初級・中級記事も読む

-graphenespin, 上級

  関連記事

全体アイキャッチ
人類、アト秒の世界を覗く

860アト秒の出来事 物質中には電子などの、我々が普段感じることのできないミクロな世界が広がっており、非常に短い時間で様々なことが起こっています。   ...

quantumcomputer
量子コンピューターを「使う」時代に!?

コンピューターの性能は年々向上しており、普段使うスマートフォンにおいては不自由を感じない人も多いと思います。 しかし、未だ現在のコンピューターでは困難な計算もあ ...

トップアイキャッチ
磁力による物質加工が可能に

磁石の力でモノを加工できるかもしれない! こんな研究成果が2016年3月に発表されました。 この研究から、私たちが毎日のように使っている、パソコンやスマートフォ ...

nobel
2016年のノーベル物理学賞は物質における"トポロジカル"な理論!?

2016年のノーベル物理学賞は「物質におけるトポロジカル理論」 2016年10月4日、ノーベル物理学賞の受賞者が発表されました。受賞したのはDavid J. T ...

ナノカーeyecatch
世界最小の車、はやく走らせるには?

今回は、2017年4月に行われた世界最小の車の速さを競った、ナノカーレースの科学について紹介します。ナノカーとはなにでできているのか、どんな仕組みで走るのか、ど ...

nobel
【2018年ノーベル物理学賞 解説記事】レーシックにも使われている「超短パルスレーザ」とは?

2018年のノーベル物理学賞は『レーザ物理の分野における革新的な発明』という功績を称えられ、Arthur Ashkin・Gérard Mourou・Donna ...

TSC_easy_eyecatch
”トポロジー”で音を自在に操る!?

今回紹介する研究は音についての研究です。私たちが普段から接している音という身近な現象にもわかっていないことがまだまだあります。 今回は「音響結晶中における音波の ...

180730-Magic-Angle-icon
21世紀物理の革命!?「マジック・アングル」の実現

今年、2018年の春に、世界中を沸かせた発見がありました。そのキーワードは「マジック・アングル」。日本語にすると「魔法の角度」です。 この発見とは何なのか?それ ...

zoom2
ありふれた"温泉ガス"が超伝導体に!しかも世界最高温度...

The following two tabs change content below.この記事を書いた人最新の記事 buzzscience 最新記事 by b ...

171009-2D-magnet-icon
今までの常識を破る「二次元磁石」の発見!?

二次元における物理は21世紀物理の大きなテーマですが、二次元の「磁石」はこれまで見つかっていませんでした。しかしついに今年、Natureで「二次元磁石を発見した ...