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【上級】熱流を増幅する量子熱トランジスタが実現可能に

2016/08/01

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2016年5月、フランスの国立科学研究センターの研究者たちは量子ドット(※1)を3つ組み合わせることで熱流を増幅するトランジスタをつくることができるという理論を発表しました。
(原論文:Quantum Thermal Transistor

これが実現すれば熱流を電気のように利用することができるようになるかもしれません。

※1 量子ドットについては以前の記事を参照してください。

無駄な熱の問題

現代における我々の豊かな生活には電気が欠かせません。

その電気は、2014年の段階で87.8%が火力発電によってまかなわれています。

ご存じのとおり、日本は火力発電で用いる燃料を輸入に頼っており、その費用は莫大なものとなっています。

これからエネルギー資源が枯渇していくことで価格が高騰することも考えられ、限られた燃料からいかにして効率よくエネルギーを取り出すかは大きな課題とされています。

また、その発電の結果として発生する余計な熱も地球温暖化の観点から問題視されています。

もちろん、発電のプロセスだけではなく、電化製品などで電気を利用したときにも必ず熱は発生します。

近年、このような無駄な熱をいかにして減らすかという問題は研究者たちの興味を集めてきました。

しかしながら、今のところ実用上は熱を流体や輻射(電磁波など)で運ぶことはできても制御することができていないのが現状です。

有限の資源を無駄にしないためにも、熱流を電流のように制御することができるデバイスの開発が待たれています。

powerplant

熱輻射の制御

先ほど実用上は熱の制御はできていないと述べましたが、研究レベルではある程度の制御が可能になっています。

特に熱流の流れを一方通行にする熱整流器の研究は盛んにおこなわれてきました。

最も効率の良いものは相変化材料を用いたものです。

相変化材料とは、物質の持っている性質を大きく変える「相転移(※2)」と呼ばれる現象を引き起こすときに大量の熱を吸収したり、放出したりすることができる物質のことを言います。

身の回りでは保冷剤として使われていたりします。

その中でも特にVO2という物質は室温付近で相転移を起こし、その電気的・光学的性質を変化させるために様々な工学的応用が存在します。

この物質の性質を利用してメゾスケールでの熱輻射を整流、増幅する熱トランジスタが近年実現しています。

vo2

※2 例えば、水が氷になるのも相転移の一種です。

より詳細に知りたい方は参考文献として...
VO2について:Oxides Which Show a Metal-to-Insulator Transition at the Neel Temperature, Photoinduced phase transition in VO2 nanocrystals: ultrafast control of surface-plasmon resonance
VO2を利用した熱整流器:Thermal rectification based on thermochromic materials
VO2を利用した熱トランジスタ:Near-Field Thermal Transistor, Modulation and amplification of radiative far field heat transfer: Towards a simple radiative thermal transistor

そもそもトランジスタとは?

熱トランジスタの以前にトランジスタってそもそもなに?という方もいると思うので、ここでトランジスタの性質と仕組みについて簡単に復習したいと思います。

トランジスタといっても色々な仕組みのトランジスタがあるのですが、ここでは一般的なNPN接合のバイポーラトランジスタを取り扱います。

NPN接合のバイポーラトランジスタは、以下の図のようにコレクタ、ベース、そしてエミッタの三つの部分からなります。

それぞれ、コレクタとエミッタでは電子が過剰なN型半導体、ベースでは電子が不足しているP型半導体となっています。

このような設定の下では、コレクタとエミッタの間にある程度の電圧を印加しても電流は流れません。

しかし、コレクタとエミッタの間に電圧を加えた状態で、さらにエミッタとベースの間に電圧を加えると、エミッタとコレクタの間を大きな電流が流れることになります。
(詳細な解説は村田製作所ホームページなどを参照してください)

このように、ベースに加える電圧を変化させることによって電流を増幅したり、あるいはそれを利用してスイッチングしたりするのがトランジスタの主な性質とその応用になっています。

熱トランジスタとは、そのようなトランジスタの「電流」を「熱流」に置き換えたものだと考えてください。

トランジスタ

量子系で熱トランジスタ

今回の研究の新しい点は、現代の電子回路のような微小なサイズで熱トランジスタが作れることを示した点です。

今まで、通常の電子回路で発生するような熱は小さすぎるため、それを利用することはできず、完全に無駄となっていました。

ところが今回の研究により、電子回路内にこの熱トランジスタを埋め込めば、熱流を増幅して取り出すことによって発電などに応用したり、あるいは熱流を電流のように扱って何らかの演算を行うことが可能になります。

電子回路

では、どのようにしてこの熱トランジスタを実現するのでしょうか?

その方法はものすごく簡単で、たった3つの量子ドットを直列で並べればよいのです。

この3つの量子ドットはそれぞれ、電気回路におけるバイポーラトランジスタのコレクタ、ベース、エミッタに対応しています。

それぞれの量子ドットをナノ粒子に埋め込んでおけば、電気を用いて温度を別々に変化させることができます。

シミュレーションでは、コレクタの温度をエミッタの温度の10倍程度にして、ベースの温度をコレクタの温度より十分に小さくすると流れる熱流が100倍以上になることが示されました。

これはベースから熱流が流れているわけではなく、ベースが存在することによってコレクタからエミッタへの熱流が増幅されているのです。

これはまさにトランジスタのような性質です。

このように、無駄な熱をリサイクルして有効活用できるようにするナノデバイスが実現して、今後も人類が地球と共存した豊かな暮らしを続けていけると良いですね。

※専門家向けの注釈
この研究ではLindblad演算子を状態に作用させたものの平均を熱流と定義しています。
人によってはエネルギー流だと思われる方もいるかと思われますが、理論の有用性には影響がないと考えられるのでこのような形で執筆しました。

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