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【上級】難病ALSの治療法確立

2016/07/19

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2016年6月、東京大学より「筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療法確立」という論文が発表されました。
難病であるALSの治療が可能になるかもしれない、画期的な研究成果です。
今回はこの研究について見ていきます。

ALSとは進行性の筋力低下や筋肉の萎縮を特徴とする難病であり、これによって食事や呼吸をする筋肉まで動かなくなり、そのまま死に至ることもあります。これまで、ALSには有効な治療法がないどころか、ALSを発症する原因すら分かっていませんでした。しかし、この研究グループはALSの原因を特定したばかりか、ALSは現在市販されている薬で治療できる可能性を示しました。

ALSってどんな病気?

ALSに罹ると筋肉が動かなくなると書きましたが、筋肉の病気ではありません。ALSは神経の病気です。私たちが手を動かしたり、歩いたりするとき、脳から脊髄、そして脊髄から筋肉に命令が伝わります。この命令は神経を通じて伝えられるのですが、ALSに罹ると脳や脊髄の神経が上手く働かなくなり、命令が伝わらなくなってしまうです。

ALS1

なぜ神経が上手く働かなくなるのか長い間わからないままでした。しかし、この研究グループはALSの原因が“カルシウムイオン(Ca2+)が神経細胞内に大量に流入すること”であると突き止めました。

Ca2+は神経細胞を興奮させる作用があり、健康な状態ではCa2+が神経細胞に入りすぎないように厳密にコントロールされています。しかし、ALSにかかるとコントロールできなくなり、Ca2+の過剰流入により神経細胞が死んでしまい、命令が伝えられなくなります。

もう少し難しい話をしますと、細胞内外の分子のコントロールはタンパク質が担っています。ALSに罹ると「普段アミノ酸をコントロールし、他の分子を通さないようにしているタンパク質」が壊れ、Ca2+も一緒に通すようになってしまいます。その結果、Ca2+が神経細胞に大量に入ってきて神経細胞が死んでしまうのです。

ALS2

原因がわかれば薬は見つかる

実はこの原因となっているタンパク質は“てんかん”という病気の原因にもなっていて、そのタンパク質の異常を治す薬は既に市販され、病院で使われています。そこでこの研究グループは既に売られている薬を使って、ALSを発症させたマウスの治療実験を行いました。

ALS3

すると、神経細胞死が抑制され、治療を受けた全てのマウスが90日間の実験終了まで生き続けるという結果が出ました。さらに、ALSが進行したマウスにこの薬を与えると、進行が抑えられ、高い治療効果があることが確認されました。

社会実装に向けて

この研究グループは、つい最近まで原因すら分かっていなかったALSの原因を解明したばかりか、既に売られている薬を使って、ALSマウスの治療に成功しました。これはつまり薬が安全であることが国に認められているため、臨床試験(治験)へ進むハードルが低いことを意味します。近い将来、"難病"ALSは克服できる病気になるかもしれません。

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-ALS, 上級

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photo credit: National Institutes of Health (NIH) Gene Editing via photopin (license)
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