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【上級】撥油性表面において油滴の自動輸送を実現

2016/07/24

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2016年6月17日、Science Advances誌に「油滴の自動輸送を実現」という研究が報告されました。
この研究は、表面張力が水と比べ極めて小さく濡れ広がりやすいエタノールの輸送までも実現したことから注目を集め、

・エネルギーのいらない油滴自動輸送システム
・分析装置や流体デバイスの油汚染の予防機能
・より簡便な液体制御システム

などへの応用が期待されています。

百聞は一見に如かず!

...ということで、まずは動画をチェック。

ご覧のように、右側に落とした液滴が中央に吸い寄せられるように移動するのが分かります。このような液体の自動輸送表面を作製するためには、表面の濡れやすさに勾配を作り、液滴の接触角に前後で差をつける、というのが1つのセオリーになっています。しかし、水以外の多くの液体は表面張力がずっと小さく表面で濡れ広がってしまうため、このような自動輸送は極めて難しいとされてきました。ところが今回、彼らは水より3倍も表面張力が小さいエタノールさえも自動輸送させることができました。

では、彼らはどのようにしてこの表面を実現したのでしょうか。

微細構造の作り込みがカギを握っていた

今回作製された表面には、2つの重要な構造特性が組み込まれています。それは、

H型加工が施されたストライプを②放射状に配置した

という点です。それぞれ詳しく見ていきたいと思います。

figure0-2

H型加工が液体を支える

このH型加工が施されたストライプ上に油滴を落とすと、油滴はストライプの側壁に沿うように変形します。しかし、油滴が側壁のエッジ下部まで到達すると、表面張力は重力に逆らって上向きに働くようになるのです。もしこのストライプ模様にH型加工が施されていなかったら、90°以下の接触角をもつ液体は上向きの表面張力を得ることができず、濡れ広がってしまいます。

figure1

放射模様が中央へ移動させるレールになる

エッジ下部で上向きに作用する支持力(=表面張力)は、いわば空気のクッションのようなものです。この支持力は、

(表面張力)×(接触角)×L

と書くことができます。この式で、Lは液体がパターンの角に接している線分の長さを表します。つまり、液体-パターン表面-空気が同時に接し合っている三重点を結んだ線の長さ、ということですね。
下図赤線がLに相当します。

figure3

 

さて、表面張力と接触角は液体に固有の値ですが、Lはどうでしょう。ストライプの間隔が狭くなるほど、Lは短くなります。すなわち、ストライプの間隔が広いほど支持力は大きく、間隔が狭いほど支持力が小さくなるのです。

そこで研究グループは、このストライプ模様を放射状に配置しました。
すると、円の外側よりも内側の方が液体を上向きに支える力が弱くなります。
その結果、液体は空気のクッションに押し出されるようにして中央へ移動したのです。

ストライプのパターンを変化させると

ストライプの間隔や、H型加工の形を微妙に変えていくと、液滴は中央に輸送されたり、その場にピン止めされたり、外側に濡れ広がったりとその特性が変わることが分かりました。

研究グループはこの現象を詳細にモデル化し理論的に計算したところ、放射ストライプ模様の間隔を狭くし、ストライプの幅を広くとることで中央への輸送を効率化できることも分かりました。
殆どの化学物質や生体由来物質は水よりも表面張力が小さいことが知られていますが、この研究を応用することで今までより簡単に様々な液体を制御できるようになります。

既存の色々な装置に応用できる

今回作製された紹介した加工表面は非常に安定で、10ヵ月大気中に放置した後でもパフォーマンスは一切低下しませんでした。また、液滴の自動輸送に電気や光などのエネルギーを必要としません

時に研究者は微小液体を精密に制御しなければいけませんが、(―例えば顕微鏡で1滴の油滴を詳細に解析したい時。例えば貴重なサンプルの測定量を最小限に抑えたい時)こうした微小液体を扱う必要のある様々な分析デバイスや機械に応用できると考えられます。

もっと身近な所では、例えばインクジェットプリンターのヘッダーにこの技術を搭載することで、オイルやインク汚れが付着せず、目詰まりせず、より繊細かつ綺麗に印刷できるプリンターも実現できるようになるでしょう。

 

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