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【上級】狙ったタンパク質のみ活性化する新技術!

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2016年6月、京都大学より「狙った膜タンパク質受容体を選択的に活性化できる新たな手法を開発」という論文が発表されました。

今回はこの研究について見ていきます。

膜タンパク質受容体は細胞外の特定の物質に結合し、構造が変化することで細胞内に情報を伝え私たちの体の活動に強く関与しています。そのため、膜タンパク質受容体は“薬のターゲット”として有望であるため、その機能を明らかにすることは強く求められています。しかし、細胞膜には構造が似ている受容体タンパク質が多く存在するため、ターゲットとなるタンパク質の機能のみを観察することは非常に困難です。今回の報告では、「受容体タンパク質の構造の変化」に着目し、人工的にこの構造変化を引き起こすことで、狙ったタンパク質のみの活性化に成功しました。この手法を利用することで、受容体タンパク質の機能が明らかになり、ゆくゆくは原因のわかっていない病気の詳細な機能が解明できるようになるかもしれません。

1.膜タンパク質とは

細胞膜には機能の異なるたくさんのタンパク質(膜タンパク質)が存在します。膜タンパク質は細胞内外の物質輸送・排出に重要な役割を果たし、薬剤応答やエネルギー変換、免疫反応など生理的な機能に大きく影響しているタンパク質です。創薬の60%は膜タンパク質をターゲットとなっており、薬効や副作用などを評価する上で膜タンパク質の機能を正確に把握することは非常に重要となります。

下の図では形の違う膜タンパク質を書いていますが、実際には似たような形で機能が違うといった膜タンパク質が多く存在し、調べたいタンパク質の機能のみを調べることは非常に難しいです。そこで、狙った膜タンパク質のみを活性化して機能を調べることができる手法の開発が求められていました。図1

2.膜タンパク質の一つ受容体タンパク質

受容体タンパク質とはリガンドと呼ばれる特定の分子が結合すると構造が変化し、活性化(または不活性化)する膜タンパク質です。

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今回の研究では、記憶や学習に関与していると考えられているグルタミン酸受容体を対象として実験が行われました。グルタミン酸受容体は、リガンドであるグルタミン酸が結合すると口を閉じるように形が変わることが知られています。この「口を閉じるような形の変化」を強制的に起こすことで、グルタミン酸受容体のみ活性化させることができるだろうと、この研究グループは考えました。

図2

3.化学の力はタンパク質すら動かせる!

実際に、遺伝子工学により金属化合物と結合する分子をグルタミン酸受容体に導入させると、その金属化合物がリガンドとして働き、グルタミン酸受容体の構造変化が生じ、活性化することが確認されました。このとき、もともと存在するグルタミン酸受容体は活性化しなかったため、変異させたグルタミン酸受容体のみが選択的に活性化していることが確認されました。また、細胞膜には複数のグルタミン酸受容体が存在し、これらは、タンパク質としての機能はそれぞれ異なりますが、グルタミン酸によって活性化されるという点は同じです。しかし、この研究の方法を利用すればこれらグルタミン酸受容体を別々に活性化させることに成功しています。

4.将来性

冒頭でも述べたように、活性化に成功したグルタミン酸受容体は、記憶や学習などの脳機能に関与していることが知られています。しかしながら、グルタミン酸受容体には複数の種類が存在し、各々の詳細な機能はいまだ不明な点が多いです。この研究の手法を応用することで、記憶や学習のメカニズムを詳細に解明できるだけでなく、神経疾患(アルツハイマー病・パーキンソン病など)に対する創薬研究につながることが期待されます。さらに、この研究の手法は他の膜タンパク質でも可能であると考えられるため、より広い応用先が考えられます。

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