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【上級】カーボンナノチューブの巻き方の制御!

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狙ったカイラリティのナノチューブの合成

2017年2月、中国と韓国の研究グループによる「特定の構造のカーボンナノチューブを合成した」という研究がNatureに掲載されました。
今回はこの研究についてみていきます。

年々コンピューターの演算速度、消費電力等の性能が向上していますが、現在使われているシリコンという材料では性能向上に限界があることが知られています。
そこで代替材料として期待されているのがカーボンナノチューブです。

カーボンナノチューブは構造のわずかな違いにより電気特性が異なるため、コンピューターに使うには特定の構造を持ったカーボンナノチューブが必要となります。

今回紹介するのは、「材料となる炭素を含んだガスの濃度」と「触媒の形状」というカーボンナノチューブ合成の舞台を制御することにより、カーボンナノチューブの構造を制御したという研究成果です。

カーボンナノチューブとは?

まずは、カーボンナノチューブについて解説します。

カーボンナノチューブの元となるのはグラフェンと呼ばれる炭素原子による六員環構造です。下図に示すのがグラフェンであり、一つ一つの球体が炭素原子を表します。
graphene
グラフェンを層状に重ねると鉛筆にも使われる「黒鉛」となりますが、筒状にするとカーボンナノチューブとなります。
8_4CNT_VMD
カーボンナノチューブは機械強度だけでなく電気特性も優れており、コンピューター中のトランジスタという部品への応用が期待されています。

なぜトランジスタにカーボンナノチューブ?

コンピューターは0と1という2つの数字を用いて演算をしています。この0と1を司るのがトランジスタです。トランジスタの模式図を示します。
FinFET
トランジスタでは図中のゲートという部分に印加する電圧によって「ソース・ドレイン間の電流」を制御し0と1を区別します。

ソースとドレインの間には半導体という性質を持つ物質が用いられます。

ゲートの電圧によらず電気を流す金属に対し、半導体はゲートに電圧を印加した場合にのみソース・ドレイン間に電流を流すことができます。

半導体として現在はシリコンが用いられていますが、カーボンナノチューブを用いることにより低消費電力で高速にトランジスタが動作することが期待されています。

カーボンナノチューブの課題

トランジスタの性能を向上させると期待されているのは半導体のカーボンナノチューブです。しかしカーボンナノチューブは構造によって電気特性が異なり、すべてのカーボンナノチューブが半導体とは限りません。

二つのカーボンナノチューブをご覧ください。
8_8and8_4
二つとも筒状ではありますが、よく観察すると巻き方が異なります。巻き方はカイラリティと呼ばれ、グラフェンを筒状にするときに重ね合わせる炭素原子の位置関係によって決まります。

炭素原子の位置関係を指定する方法は図の通りです。図中に黒丸で示した炭素原子を重ね合わせて筒を作るとしたとき、カイラリティは(→の個数→の個数)として指定されます。

CNT_chilarity
この図の場合は(8, 4)となります。
そしてカイラリティによって電気特性が異なり、
(→の個数)(→の個数)が3の倍数であるときは、半導体でなく金属の性質を持つことが知られています。

(8,4)の場合は8-4 = 4で3の倍数ではないので半導体です。
3の倍数でないときのみ半導体であるので、カイラリティが完全にランダムであるとすると合成されたカーボンナノチューブのうち3分の2のみが半導体となります。

では、どのようにカイラリティを制御し、半導体のカーボンナノチューブのみを合成するのでしょうか?

カーボンナノチューブの合成法

具体的なカイラリティの制御方法を解説する前に、現在カーボンナノチューブ合成の主流となっているChemical Vapor Deposition (CVD)法について解説します。今回の研究でもベースとなるのはこのCVD法です。

CVD法では、原子数百個が集まってできた触媒と呼ばれるナノメートルサイズの石を利用します。この触媒がカーボンナノチューブ合成の舞台となります。

まず、カーボンナノチューブの元となる炭素原子を、炭素を含んだガスによって触媒に供給します。

この論文ではエタノール分子(CH3CH2OH)が炭素を含むガスとして用いられ、エタノールの分解によってエタノール中の炭素原子(C)が触媒に供給されます。

そして、触媒上に供給された炭素原子はおのずと触媒上でカーボンナノチューブの形状に集合し、図のように触媒からカーボンナノチューブが成長します。
CVD
カイラリティを制御するには、この炭素原子がおのずと集合する現象を制御する必要があります。

特定カイラリティの合成法

それではいよいよ、特定のカイラリティのカーボンナノチューブを合成する新手法について紹介します。

研究グループは2つの制御方法を組み合わせることで特定のカイラリティのカーボンナノチューブを合成することに成功しました。

カイラリティの制御その1:速度論的制御

まず一つ目は"速度論的制御(kinetic control)"です。

利用したのはカイラリティの違いによるカーボンナノチューブの成長速度の差です。カイラリティによって成長が速いカーボンナノチューブと成長が遅いカーボンナノチューブがあることが知られており、図中に示すキンクと呼ばれる構造が多いと成長が速いとされています。
8_4_kink
そしてキンクが多いのは(n, m)において nがmの2倍になるカーボンナノチューブです。つまり(2m, m)となるナノチューブです。たとえば先ほど図で示した(8,4)ナノチューブはこの条件に当てはまります。

研究グループは、炭素源分子の濃度をあげることで(2m, m)のカーボンナノチューブの優先度合を高めることができることに注目しました。そこでエタノールの濃度をあげて合成をすることにより、(2m, m)のカーボンナノチューブが優先的に成長する条件を整えました。

カイラリティの制御その2:触媒の形状による制御

さて、速度論的制御で成長が促されたのは(2m, m)タイプのカーボンナノチューブでした。(2m, m)タイプのなかにも(8, 4)、(12, 6)などいくつか種類が考えられますが、たとえば(12, 6)は金属の性質を持つので混ざるのを避ける必要があります。

そこで、続いて研究グループが利用したのが触媒の形状です。

触媒の形状の中でも研究グループは触媒の直径対称性に注目し、触媒と等しい直径・対称性を持ったカーボンナノチューブが触媒上で成長しやすいことを利用しました。

対称性について簡単に解説します。(8,4)ナノチューブの切断面に注目してください。青、黄、紫、赤の部分が同じ形をしていることが分かります。

8_4_4_fold
このように「1/4回転(90度回転)させても回転前と同じ形になる」という性質を「4回対称」と呼びます。

カーボンナノチューブは炭素原子が集合して形成される構造でしたが、触媒も数百個の原子が集合することにより形成されます。

触媒の直径や対称性は用いる原子の種類や合成する温度によって異なりますが、研究チームはタングステンカーバイド(WC) という触媒が(8,4)のナノチューブに近い直径と4回対称性の表面を持つように合成できるということを発見しました。

そしてタングステンカーバイドを触媒として用いることで4回対称性のカーボンナノチューブを、速度論制御により(2m, m)タイプのカーボンナノチューブを優先的に成長させることで、両方の条件を満たす(8,4)タイプのカーボンナノチューブを選択的に合成しました。

研究チームはこの手法を用い、合成したカーボンナノチューブのうち80%を(8, 4)タイプのカーボンナノチューブにすることに成功しました。これは特定カイラリティを持つ半導体ナノチューブの合成率としては過去最高値となります。

まとめ

今回の発表はカーボンナノチューブの炭素を含むガスの濃度制御触媒の形状の制御を組み合わせて合成の舞台を制御することにより、特定カイラリティのカーボンナノチューブを合成することが可能であるということを示すものでした。

しかし、カーボンナノチューブを用いたトランジスタでシリコンを用いたトランジスタを代替するほどの性能を得るためにはより精度よくカイラリティを厳選する必要があり、今後さらに均質な大きさの触媒を合成する技術等が望まれます。

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