BuzzScience

最先端の科学を、楽しく、面白く

CART_syokyu

【上級】改造細胞で病気を治す!?

2017/10/02

Pocket
LINEで送る

CART療法と呼ばれる、遺伝子改変した免疫細胞を用いて病気を治す療法が近年注目されています。実用化に向けて様々な研究が行われていますが、今回はその中から筆者の最も好きな研究である、「自己免疫疾患の治療への応用」についての論文を紹介します。(2016年6月にアメリカのペンシルバニア大学のグループから報告)

免疫とは?

私たちは、細菌やウイルスといったものに囲まれて生活しています。これらの病原体は常日頃から我々の身体に侵入していますが、多くの場合病気が発症することはありません。これは私たちが「免疫」と呼ばれる異物への防御機構を備えているためです。
「免疫」は病原菌など外部から侵入してきたものやガンなどの異常細胞を見つけ出し、それらを排除する機構です。この機構は、マクロファージ・樹状細胞・ナチュラルキラー細胞といった様々な種類の免疫細胞が連携することにより成り立っています。今回の論文は、T細胞と呼ばれる免疫細胞の一種に着目し、その機能を人工的に改変・強化する技術を用いて、自己免疫疾患の治療への足がかりを示したものです。

CART細胞とは?

免疫機能は一般的に①「異物を認識し」②「攻撃する」という2つのステップから成ります。この2つのステップを司るのが、細胞表面に存在する受容体と呼ばれる、細胞膜を貫通した構造を持つタンパク質です。T細胞の受容体では、細胞外に露出した部位(細胞外ドメイン)で異物を認識し、細胞内に「異物を排除せよ」というシグナルを伝達します (図1)。

T-cell_CS6_eguchi図1. T細胞のはたらき

この異物の認識に関わる細胞外ドメインを、「抗体」という別のタンパク質に置き換えたものがCART細胞です。この「抗体」も免疫機能において重要な役割を担うタンパク質の一種であり、それぞれの抗体ごとに特定のターゲットに対して非常に強い力で結合するという特徴があります。実際の免疫機構では、抗体が異物に結合したことを目印として他の免疫細胞が集まり、その異物を攻撃し排除するという仕組みになっています。
CART細胞では、何に結合する抗体を細胞外ドメインに選ぶかによって様々なタンパク質を持つ細胞を標的とすることができます (図2)。

Tcell-CARTcell_CS6_eguchi 図2. CART細胞とは

+

自己免疫疾患への応用

本論文では自己免疫疾患の原因となる病化した免疫細胞をターゲットとしています。自己免疫疾患とは、免疫細胞に問題が生じて、自己の正常なタンパク質や細胞に対して攻撃をしてしまう病気です。代表的な病気として、リウマチやバセドウ病などがあります。今回は、尋常性天疱瘡じんじょうせいてんぽうそうと呼ばれる病気の治療を試みています。尋常性天疱瘡じんじょうせいてんぽうそうは、皮膚の細胞同士の接着に必要なタンパク質が標的とされることで、皮膚の細胞の接着が弱くなり、水ぶくれなどが生じる病気です。

著者たちは、自己免疫疾患を治療する為にCART細胞の受容体の細胞外ドメインを「原因となる免疫細胞が認識する自己のタンパク質」に置き換えた新しいCART細胞を開発しました (図3)。

CART_今回の戦略_CS6_eguchi図3. 本論文で開発されたCART細胞の仕組み

この新しいCART細胞では、細胞の接着に必要なタンパク質が細胞外に存在するため、皮膚の細胞のおとりとなることできます。病化した免疫細胞はこのCART細胞を認識してしまい、逆にCART細胞に見つかり排除されてしまいます。

これまでの自己免疫疾患の治療法では、免疫細胞の機能を弱めるというアプローチを取っているために正常な免疫細胞も弱体化してしまい、他の病気への耐性が落ちてしまうという重大な副作用がありました。CART細胞を用いて「自分の細胞を攻撃する免疫細胞」のみを排除することで、免疫機能低下という副作用を生じることなく自己免疫疾患を治療できる可能性が示されたのです。

  初級記事も読む

-CART, 上級