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【上級】”トポロジー”で音を自在に操る!?

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2016年12月,中国の武漢大学を中心とした研究グループにより「音響結晶中における音波のトポロジカルバレー輸送の観測」という論文が発表されました。
今回はこの研究を紹介します。

音波とフォノニック結晶

日常で我々が聞いている音は空気中の分子の振動が波(音波)として伝わることによって耳に届いています。この音波を制御する技術の一つにフォノニック結晶というものがあります。結晶というと食塩や氷のように原子や分子,イオン等が規則正しく並んでいるものを想像するかと思いますが,フォノニック結晶とは周期的に障害物を設置することで音波の伝わり方を変化させるものです。フォノニック結晶を用いれば特定の高さの音波の伝播を阻害したり音波を特定の方向に誘導したりすることができます。しかし従来のフォノニック結晶では音波の散乱や反射等が起こり,効率が良くありませんでした。今回発表された研究では『トポロジカル絶縁体』のアイディアを用いてフォノニック結晶を作製し,特定の高さの音を特定の場所に効率良く伝えることに成功しました。

トポロジカル絶縁体

トポロジカル絶縁体とは,材料の中(バルク)は絶縁体であるにもかかわらず材料の端(エッジ)では導体になる物質のことです。現在はまだデバイス応用には至っていませんが,低消費電力のトランジスタや量子コンピューティングへの応用に期待が寄せられています。このトポロジカル絶縁体の優れた特徴の一つとして,エッジでは散乱が起こらないので効率よく電流を流すことができるということが挙げられます。この現象を音波で模倣することができれば非常に効率良く音波を伝えることができます。では,実際にどうやって音波のトポロジカル絶縁体を実現したのでしょうか?

ポイントは2種類作る!

今回の研究で作製したフォノニック結晶を用いると「狙った高さの音だけ」を「好きな場所」に「好きな経路」で伝えることができます。それではその作製手順を見ていきましょう。まずアクリル樹脂でできた三角柱を蜂の巣状に規則的に並べます。この状態では全ての高さの音波がこのフォノニック結晶中を通過することができます。しかし,このままでは音は様々な方向に拡散的に伝わるので特定の場所に効率よく伝えることはできません。

triangle_3D_normal01_ver02_hard図 1. 規則的に並んだアクリル樹脂の三角柱の間を音波が通過していく。

triangle_ver02_hard図 2. 図1を上から描いたもの。白の部分がアクリル樹脂,水色の部分が空気。音波は空気が振動することで伝わる。グレーの線はこの結晶の境界を示したもので実際には何もない。

そこで,三角柱を反時計回りに少し回転させます(これを領域 I と名付けます)。すると,狙った高さの音波だけ通過できなくなります。

triangle_left_ver02_hard図 3. 三角柱を少しだけ反時計回りに回転させたフォノニック結晶(領域 I)。

同様に時計回りに三角柱を回転(領域 II と名付けます)させた場合も狙った高さの音波だけ通過できなくなります。

triangle_left_ver02_easy図 4. 三角柱を少しだけ時計回りに回転させたフォノニック結晶(領域 II)。

今作った2種類のフォノニック結晶は私たちの耳で聞くと全く同じような働きをしているように思えます。しかし,実はこの2種類のフォノニック結晶では音波の伝わり方が違うのです。

空気の渦

フォノニック結晶中では音波は様々な伝わり方をします。この伝わり方のことをモードと呼びます。今回作ったフォノニック結晶では赤の点を中心に時計回りに流れる音波のモードと青の点を中心に反時計回りに流れる音波のモードが狙った高さに存在します。

mode_ver01_hard図 5. 狙った高さに現れる2種類のモード。

三角柱を回転させていない最初のフォノニック結晶ではこの2つのモードは同じ狙った高さで伝わります。三角柱を反時計回りに回転させた領域 I では,時計回りのモードの音が高くなり反時計回りのモードの音が低くなります。しかし領域 II では時計回りのモードの音は低くなり反時計回りのモードの音は高くなります。このように2つの領域ではモードごとに音の高さが異なります。
sound_vortex_ver04_hard図 6. 三角柱を回転させることで元々同じ高さだったモードが高音と低音に分裂する。



【発展:モードの詳細な説明】

散乱しない音の通路

では最後に領域 I と領域 II を隣り合わせてみましょう。それぞれの領域では対応するモードの音に高低差が生じていました。では2つの領域の境界面ではどうなるでしょう? 答えは「それぞれの領域で通過できなかった高さの音波が通過できる」です。それぞれの領域でモードの高低が反転しているため境界面において必ず狙った高さのモードが新たに形成されるのです。

EdgeMode_ver01_hard図 8. それぞれの領域には狙った高さの音は通過できないが,境界面でのみ通過できる。



【発展:境界面に現れるモードについて】


2つの領域をつなぎ合わせることでできた音波の通路には優れた特徴があります。それは音が散乱せずに伝わるということです。従来のフォノニック結晶を使った音の通路では結晶の柱が規則的に並んでいなかったり通路がジグザグだったりすると音波が散乱してうまく伝わりません。しかし2種類のフォノニック結晶で作った通路は先程述べたトポロジカル絶縁体の性質を持っているため通路をどのような形にしても音が散乱せず効率良く伝わります

triangle_waveguide_topological_ver04図 9. 1種類(領域 I のみ)のフォノニック結晶で作った従来の音波通路。緑の色付けは領域を明確にするためで実際の媒質は空気。

triangle_waveguide_topological_ver03図 10. 2種類のフォノニック結晶(緑の部分が領域 I,紫の部分が領域 II)から成るトポロジカルな性質を持った音波通路。緑と紫の色付けは領域を明確にするためでい実際の媒質はどちらも空気。

この研究が発展すれば音波や固体の振動を自在に制御できるようになるかもしれません。またフォノニック結晶は簡単に構造を変えることができるので,電子における新たなトポロジカル絶縁体の発見につながる可能性も秘めています。

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