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【上級】量子コンピューターで「電子の状態」を計算!

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コンピューターの性能は年々向上しており、普段使うスマートフォンにおいては不自由を感じない人も多いと思います。

しかし、未だ現在のコンピューターでは解くことが困難な問題もあります。
その一つが大きな物質の電子状態シミュレーションです。
大きな物質の電子状態シミュレーションが可能になると「どのような薬がよく効くか」「どのような太陽電池が効率がいいのか」など様々なことが、実際にその物質をつくらなくともわかるようになります。

このようなシミュレーションに、量子コンピューターという新たな計算方式のコンピューターが役立つと期待されています。
十数年前まで量子コンピューターは理論上のものでしたが、近年は実際につくられるようになってきました。
小規模な量子コンピューターなら私たちも使うことができます。(たとえばIBMのサイトでは5量子ビットの量子コンピューターを試せます。)

今回は、「実際の量子コンピューターを用いて、簡単な物質(2014年にHe-H+、2017年にBeH2)の電子状態シミュレーションに成功した」という研究を紹介します!

これらの小さい物質の電子状態シミュレーションは従来のコンピューターでも可能ですが、今後の量子コンピューターの発展により従来のコンピューターでは不可能なほど大きな物質の電子状態シミュレーションができるようになるかもしれません!

(最近メディアでは「量子コンピューター」としてゲート型量子コンピューターや量子アニーリングマシーンなどが取り上げられていますが、この記事はゲート型量子コンピューターに関するものです。)

量子コンピューターとは

従来のコンピューター(本記事ではこれを古典コンピューターと呼びます)において計算の基礎単位となるのは0と1の2値からなるビットですが、量子コンピューターでは量子ビット(qubit)がこの0と1を担います。
量子コンピューターが古典コンピューターと異なるのは、量子ビットは0と1が重ね合わさった状態もとれるという点です。
たとえば、「20%の確率で0となり、80%の確率で1になる状態」という状態をとれます。

この重ね合わさった状態では、どちらの状態であるかは「測定」をするまで決まりません。

量子コンピューターにおける計算とはこの重ね合わせ状態を操作することにあたります。
たとえば、さきほどの「20%の確率で0、80%の確率で1になる状態」を「80%の確率で0、20%の確率で1になる状態」へ変換する操作などがあります。

量子コンピューターでおこなう重ね合わせ状態の操作はユニタリ―変換という操作であり、上述の操作もユニタリ―変換の一つです。

【発展】 行列・ベクトルによるあらわしかた

電子状態の計算

今回紹介する研究は、量子コンピューターを用いて物質中の電子状態のシミュレーションをするという研究です。
電子状態の計算は創薬や材料開発などあらゆる物質に関する分野の基礎となっているため、電子状態計算をいかに速く精度よく行うかは大きな課題です。

電子状態は図のようにいくつもの可能性がありますが、この中から正しい電子状態を見つけだすことが目的です。
electron_state

正しい電子状態を見つけ出す方法の一つが変分原理を用いた方法です。
変分原理は、「正しい電子状態のとき物質はもっとも安定となる」というものです。

安定さ(エネルギー)は仮定した電子状態(上図では電子状態A、電子状態B、電子状態C)についてそれぞれ計算ができます。

この原理を用いると、さまざまな電子状態から安定さを計算し、最も安定な電子状態を探すという戦略がとれます。

電子状態を準備してその安定さを計算し、より安定になるように次の電子状態を準備するという操作を「これ以上安定にならない」というところまで繰り返すのです。
この方法は古典コンピューターを用いた計算でも用いられています。

問題となるのは、電子状態を準備するという段階です。
電子状態は複数のパラメーターを用いて表します。

正確な電子状態を計算するためには相応数のパラメーターを置く必要があります。

電子状態は物質が大きくなればなるほど複雑になり、古典コンピューターでは正確な電子状態を表すためのパラメーターの数が膨大になってしまいます。

なぜ量子コンピューターが有利か

ここで電子状態を準備しその安定さを計算するのに量子コンピューターを用いるというのが冒頭で紹介した研究です。

量子コンピューターを用いた方法はVQE:Variational Quantum Eigensolverと呼ばれています。

なぜ、電子状態を量子コンピューターであらわすといいのでしょうか?

古典コンピューターに対して量子コンピューターが優れている点は表現できる電子状態の幅です。

実は正しい電子状態はユニタリ―変換を用いて表されることが知られています。

そして、量子コンピューターの計算方法はユニタリー変換そのものでした。

このどちらもユニタリ―変換で表せるということが相性の良さにつながるります。
よって、量子コンピューターを用いるとあらゆるユニタリ―変換に対応した状態を効率的に表すことができるのです。

量子コンピュータでVQEを用いて2014年にHe-H+、2017年にBeH2の電子状態シミュレーションが行われました。

以下のタブで、具体的に古典コンピューターで表すことが難しい電子状態について紹介します。

【発展】 古典コンピューターで表現が困難な電子状態

また、今回紹介した電子状態の計算方法が開発される前から提案されている「量子位相推定」という手法とVQEの違いについても紹介します。

【発展】 別のシミュレーション方法「量子位相推定」

量子コンピューターによる電子状態計算の未来

現在までに量子コンピューターを用いて計算された電子状態は古典コンピューターでも計算が可能です。
今後の量子コンピューターの発展により、古典コンピューターでは計算が不可能であった電子状態も計算できるようになるのではないかと期待が高まります。

-quantum computer, 上級

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