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【上級】物理と化学の融合!?新しい「イオン・スイッチ」

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パソコンやスマホに用いられている「電子工学」は私たちの生活になくてはならないものですが、これまでの電子技術だけでは限界があるため、それを打ち破るための新技術の登場が求められています。その新技術の候補の一つとして、物理と化学を最先端技術で組み合わせた「イオン・スイッチ」という手法が注目を集め始めています。この記事では、学術誌Natureで報告された新しい「イオン・スイッチ」(2017年7月、中国の清華大学のグループから報告)に関連して、「イオン・スイッチ」の紹介を行います。

スイッチの一種、「トランジスタ」ってなに?

私たちの身の回りには、電灯のスイッチ、スマホのスイッチなど、たくさんのスイッチがありますが、これらのスイッチではボタンを押したりレバーを下げたり私たちが直接触ることによって電気を操作します。しかし、身の回りには、別の種類のスイッチがあります。それは「トランジスタ」と呼ばれるスイッチで、このスイッチは電気で別の電気をオン・オフするのです。身の回りのパソコンやスマホなど、ありとあらゆる電化製品にこのトランジスタは使われており、まさに私たちの日常の土台であると言えます。

トランジスタはどのような仕組みで電気を制御しているのでしょうか?その鍵は、電気の流れを担っている電子にあります。電子はマイナスの電気を帯びている粒で、これが流れることで電気の流れが生じます。そして、この電子の数が多くなるほど電気が流れやすくなり、電子の数が少なくなると電気は流れにくくなります。
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トランジスタでは、プラスやマイナスの電気からの力で電子の数を増やしたり減らしたりすることで電気の流れをコントロールする

トランジスタでは、電子の数を減らしたり増やしたりすることによって電気の流れをコントロールしています。電気はマイナスの電荷を帯びているので、そばに同じマイナスの電荷を置いて電子を集めたり、あるいはプラスの電荷を置いて電子を遠ざけたりする事で、電子の数を制御しているのです。このようにして、トランジスタでは電気(プラスの電荷やマイナスの電荷)で電気(電荷に吸い寄せられたり、遠ざけられたりする電子)をオン・オフしています。

化学の立役者!「イオン」ってなに?

さて、トランジスタでは電子が電荷を帯びていることを利用して、その量や動きをコントロールしています。ところで、電荷を帯びているものといえば、電子の他にはなにがあるでしょうか?その代表的なものが、「イオン」と呼ばれるものです。イオンとは、正や負の電荷を帯びている原子です。例えば、水素原子は一つの電子と一つの陽子(プラスの電荷)を持っているので、その電荷は打ち消しあっています。ここで電子がなくなってしまうと陽子だけが残るので、この時の水素を水素イオンと言います。この水素イオンの他にも、たくさんの原子が電子を放出したり受け取ったりしてイオンになることが知られています。
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プラスとマイナスの数が釣り合っている原子が、電子を放出したり受け取ったりすることでイオンになる

このイオンというのは、ありとあらゆる化学反応で主役としてはたらきます。酸でものが溶ける際には、イオンとものが反応しています。また、塩が水に溶けるのは塩がイオンへと変化しているからです。このように、イオンは化学反応のあらゆる場面に潜んでおり、私たちの生活に無くてはならないものであると言えます。

 化学と物理の融合!「イオン・スイッチ」の発明

これまでは、回路の主役である「トランジスタ」と、化学反応の主役である「イオン」を紹介してきました。ここでトランジスタの仕組みを振り返ってみると、トランジスタでは電子の持つ電荷を利用して、電気の流れを利用しています。ここで、読者の中には、「同じく電荷を持つイオンも、トランジスタと同じ仕組みで制御できるのではないか?」と考えた方がいるかもしれません。それが、今回紹介する「イオン・スイッチ」です。

イオン・スイッチでは、液体の中に漂っているイオンを、トランジスタと同じ要領で動かすことで、イオンを集めたり減らしたりすることができます。すると、イオンを集めることで化学反応を引き起こしたり、イオンを少なくする事で化学反応を抑えたりできるのです。このように、電気で化学反応を制御する新しいトランジスタ、というのが「イオン・スイッチ」のコンセプトです。
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イオン・スイッチにおいて電気で化学反応を起こす仕組み

このイオン・スイッチがこれまでのトランジスタと違うのは、化学反応を通じてもの自体を変化させているので、電気の流れやすさ以外の性質も変化させることができるという点です。たとえば、ものを透明から不透明にしたりできることが発見され、次世代の液晶(パソコンやスマートホンの画面の材料)として注目されています。他にもいくつかの材料で「イオン・スイッチ」による制御が報告されつつあり、今後のトランジスタの幅を大きく広げることが期待されています。

ここで、イオン・スイッチで使う材料は何でも良いのかと言いますと、そういうわけにはいきません。というのも、多くの物質ではイオン・スイッチで化学反応を起こしてしまうと元に戻らなくなるのです。これでは一回きりしか使えないので、スイッチとしては不合格ということになります。しかし最近は、化学反応の前の状態と後の状態に行ったり来たりできるような材料が発見されており、この材料でイオン・スイッチが開発されています。このような条件に適う材料をもっと多く発見することが、イオン・スイッチの進歩の鍵を握っていると言えるでしょう。

 「イオン・スイッチ」に新展開

昨年の夏、イオン・スイッチに新展開がありました。このパートでは、中国の清華大学のグループが報告した「デュアル・イオン・スイッチ」を最後にご紹介しようと思います。

イオン・スイッチは、電気で化学反応をスイッチできるトランジスタだと説明しました。ここで言う化学反応には二種類あります。「酸化」と「還元」です。そして、前のパートでの「化学反応の前の状態と後の状態に行ったり来たりできるような材料」にはいくつかありますが、それらは「酸化させても元に戻れる物質」と「還元させても元に戻れる物質」の二つに分けられます。

一方で、最近、酸化反応をさせても元に戻る事が出来る上に、還元反応をさせても元に戻れる物質というのが発見されました。この物質を使ったイオン・スイッチが「デュアル・イオン・スイッチ」です。(デュアルとは「二重」という意味で、ここでは酸化反応と還元反応の二つをコントロールできることを表しています。)この物質はコバルト酸化物と呼ばれる物質の一つで、この物質を使ったデュアル・イオン・スイッチでは①反応前の状態と②酸化させた後の状態、③還元させた後の状態の三つの状態を行き来できるのです。
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これまでのイオン・スイッチと新しく発見されたデュアル・イオン・スイッチの違い

それでは、この「デュアル・イオン・スイッチ」で酸化反応・還元反応をコントロールするにはどうすればよいのでしょうか?答えはシンプルで、集めるイオンを「プラスイオン」にするか「マイナスイオン」にするか選ぶことで材料を「酸化」するか「還元」するかをコントロールできます。たとえば、材料からはなれたところにプラスの電気をおくと、「プラスイオン」がその電気から押しのけられて材料のそばに集まります。すると、そのプラスイオンと材料の間で化学反応が起きるのですが、このとき材料は「酸化」されます。反対に、材料からはなれたところにマイナスの電気をおくと、「マイナスイオン」が材料のそばに集まって材料は「還元」されるのです。

このように酸化反応と還元反応を組み合わせて、材料を酸化したり、還元したり、あるいは酸化した材料に還元反応を行ってもとの状態に戻したりすることができます。このように材料の状態を自由自在に行き来できるのが「デュアル・イオン・スイッチ」の強みです。この発見は、イオン・スイッチという技術の可能性をさらに広げることが期待されています。さらに、三つの状態で磁石としての性質(磁性)も変わることが明らかにされ、磁性を利用した電子技術の新たな一歩としても注目されています。

まだイオン・スイッチは新しい技術ですが、この報告を始めとして、今後も新しい「イオン・スイッチ」の発見があることでしょう。今後も「イオン・スイッチ」のさらなる展開に注目です。

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