BuzzScience

最先端の科学を、楽しく、面白く

image

【上級】タンパク質をデザインする

2018/07/23

Pocket
LINEで送る

自然界に存在しない複数回膜貫通タンパク質の作製に成功した」という研究が報告され、Science誌に掲載されました。(2018年3月、ワシントン大学Insitute of Protein Designのグループより報告)

栄養素としてのイメージが強いタンパク質。ミクロな目で見ると、彼らは細胞の中で様々な機能を持っています。
タンパク質というのは、基本的には遺伝子の情報を元に作られます。タンパク質ごとにそれぞれ違った機能があり、生物はその時々で遺伝子から最適なタンパク質を選び生産することにより生きています。
生物学的視点からタンパク質に関する様々な研究が行われていますが、近年ではなんと、自然界に存在しない(=どんな生物の遺伝子にも存在しない)全く新しいタンパク質を作ってしまおうという研究が盛り上がっています。

今回はそれらの研究の最先端に位置する、複数回膜貫通タンパク質デザインについて紹介します。

まずはじめに、タンパク質とは

タンパク質は種類によって様々な形をとりますが、ほぼ全てのタンパク質はアミノ酸という分子が一列に繋がってできています。
アミノ酸というのは、我々の体を構成する重要な要素の1つであり、下図に示すような骨格を持つ分子のグループのことを指します。

膜タン上級Fig1
アミノ酸の構造

アミノ酸は上の図のR(側鎖と呼ばれる)の違いにより20種のバラエティを持っています。タンパク質がどう折りたたまれるかは、そのアミノ酸の配列によって決定されていると考えられています。

タンパク質の折りたたみ

タンパク質が折りたたまれる上で非常に重要とされているのが、20種それぞれのアミノ酸のもつ疎水性/親水性という性質です。疎水性/親水性といのは字の通り「水を嫌うか好むか」という性質です。
20種類のアミノ酸は、水を嫌うものと好むものに分けることができます。例えばRにカルボキシ基を持つアスパラギン酸は水と相性が良く(親水性)、長い炭素鎖をRに持つロイシンは水を嫌う(疎水性)といった性質があります。これらの性質の違うアミノ酸が結合し並んでいくことで、タンパク質のもととなる大きな一本の紐が出来ます。

アミノ酸の基本構造
アミノ酸の性質

では、このような「水を嫌うか好むか」という性質がタンパク質の折りたたまれ方にどのような影響があるかを考えてみましょう。
タンパク質が働くのは、私たちの身体の中です。そして私たちの身体の70%は水でできているため、タンパク質は基本的に水の中に存在しています。
そのため、水を嫌うアミノ酸を内側に、水を好むアミノ酸を外側に向けるように折りたたまれていくのです。

このような「水を嫌うか好むか」などの幾つかの原理をもとにすることで、アミノ酸配列からその構造を予測することが可能になります。
その他の折りたたみを駆動する力としては、水素結合をはじめとした静電相互作用やジスルフィド結合の形成などが挙げられます。

しかしながらこれらの要素だけでは、タンパク質のように大きな分子の構造を予測するためには膨大な時間が必要となり、あまり精度の良いものも得られません。

そこで活用されている情報の一つに、タンパク質データバンク(PDB)というものがあります。PDBには、これまでの研究で明らかにされたタンパク質の構造に関してのデータが蓄えられています。このデータバンクの情報をたどることで、「このアミノ酸配列であればこういった構造を取りやすい」という傾向を理解することができます。この傾向をもとに、構造を予測することができるのです。

このような知見のもとで、現在ではタンパク質の折りたたみ構造の予測が非常に高い精度でできるようになってきており、近年ではまったく新しいタンパク質の構造をデザインし、その構造を取るためにはどのようなアミノ酸配列にすべきかを計算し、実際に目的のタンパク質を作ることができる、ということが実現するまでに至っています。

今回紹介する論文も、そのような「新しいタンパク質をデザイン・設計し、実際に作り出す」というここ最近の流れの中の1つに位置するものです。
この論文の凄まじいところは、設計が非常に難しいとされる複数回膜貫通タンパク質と呼ばれる種類のタンパク質の設計に成功し、実際に設計通りのものを作り出した点にあります。

複数回膜貫通タンパク質デザインの何が難しいのか

タンパク質の中に、膜貫通タンパク質と呼ばれるグループがあります。膜タンパク質はその名の通り、細胞膜を貫通する形で存在するタンパク質です。複数回膜タンパク質は細胞膜を2~8回貫通するタンパク質の総称です。

この膜貫通タンパク質ですが、その折りたたまれ方を予測するのが非常に難しいことが知られています。
その理由は、細胞膜の内部は水が存在しないという点にあります。
細胞膜の主成分は脂質、つまりあぶらです。脂質は水を好む部分と嫌う部分の両方を持つ化合物であるため、細胞膜の外側は水を好み、細胞膜の中身には水がほとんど存在しないという状況ができます。
細胞膜の中身に水が存在しないということは、細胞膜中では水を嫌うアミノ酸が外に向くことができます。このことにより、先述した疎水性/親水性を原理とした折りたたみの予測というものが非常に難しくなってしまうのです。

膜タン上級fig3
構造予測の難しい膜タンパク質

複数回膜タンパク質を設計には?

彼らはまず、細胞膜の中に存在する部分の構造を先に決めてしまうという戦略をとりました。
膜内部では、タンパク質は主にらせん構造をとります。
彼らはこれまでの研究で、このようならせん構造が複数集合した構造を持つタンパク質を開発していました。
これらのタンパク質を足がかりとして、細胞膜を貫く部分の構造をデザインしたのです。

これらのらせん構造が集合する際に重要となるファクターは、やはり疎水性と親水性です。
らせん同士が集まるには、お互いの接触部分の疎水性/親水性が一致することが重要なのです。

fig4_rev.png
らせん構造の集合に関わるアミノ酸を改変することで、より安定な集合体をデザインできる。

彼らはこの観点から設計を行いました。各々の"らせん"のどこにどのアミノ酸が来た時に最も安定となるかを計算し、細胞膜内部においても安定ならせんの会合体を設計しました。
また、このらせんの末端、つまり細胞膜から飛び出す部分に対して親水性の高いアミノ酸を導入しました。
この狙いは、らせんが確実に細胞膜内部に入るよう固定することです。
この集合体をもとに彼らは、複数回膜を貫通するタンパク質を設計し、作製することに成功したのです。

膜タン上級Fig5
彼らは何をしたか?

最後に:タンパク質設計のこれから

先述の通り、複数回膜タンパク質は最も設計の難しいタンパク質のひとつとされてきました。
これまで積み上げた知見をもとにこのタンパク質を作り上げたことは、非常に大きな達成であると言えます。

複数回膜タンパク質は、細胞の外と内をつなぐタンパク質として多くの重要な機能を担っています。
今回生まれたタンパク質には、まだ何の機能もありません。今後のさらなる研究で、全く新しい機能を持ったタンパク質が生まれる可能性もあります。もっと言えば、まったく新しい機能を持った細胞や生物が作れる日が来るかもしれません。タンパク質デザインの今後に注目です。

  初級記事も読む

-de novo protein, 上級