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【研究室紹介】東京大学 山東研究室

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研究室紹介第1回の舞台は、東京大学本郷キャンパスにある山東研究室です。
実はこの研究室、BuzzScience代表の江口が現在在籍している研究室であり、山東教授から取材をご快諾頂き、研究室ってどんなところなんだろう?研究をするってどういう感じなんだろう?というのを大きなテーマとして紹介させて頂く運びとなりました。

山東研究室ってどんなところ?

山東研究室は、東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻に所属する研究室です。
東京大学本郷キャンパス内にある、工学部3号館という建物の8階が活動拠点となっています。

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東京大学工学部3号館の正面入り口。9階建てのこの建物にはたくさんの研究室が入っている。

研究室ホームページの研究内容のページを覗いてみると、

「Molecular Design for Next-Generation Chemical Biology」

 

という言葉が一番頭に載っています。
有機化学と分子生物学を基礎として優れた機能を持つ新しい分子を作りだし次世代のケミカルバイオロジーを築き上げる、というのが山東研究室の研究理念となっています。
有機化学とは、主に炭素を基本とした物質を扱う学問のことです。
分子生物学とは、DNA(核酸)、アミノ酸、タンパク質など生物が持つ分子を扱う学問のことです。
ケミカルバイオロジーとは、それらを融合した学問のことを指します。
山東研究室では、有機化学的にDNA(核酸)やアミノ酸といった生体分子を改変することによって、より優れた機能を持つ人工生体分子の開発や、有機化学の知見をもとに生体分子の機能を計測する技術の開発が行われています。

研究室を覗いてみよう

まずは、そのような研究の行われている山東研究室の様子を実際に覗いてみましょう。
写真を並べながら、研究室の様子や研究の流れについて解説していきます。
とにかく研究内容を知りたいという方は「実際の研究内容」のページへどうぞ。

先ほど紹介した「Molecular Design for Next-Generation Chemical Biology」という言葉の通り、山東研究室の研究は分子をデザインすることから始まります。
例えば、狙った機能を生体分子に持たせるために、ある特定の立体的な形を取らせる必要があるとします。その場合には、分子や原子の特徴、原子の相互作用などを考えつつ、どんな風に原子の結合を並べていくべきか、といったことを考える必要があります。
研究室のメンバーと相談したり、分子構造解析のためのソフトを使ったりすることで、このようなデザインを進めていきます。

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学生と助教(研究室のスタッフ)のディスカッションの様子。
真剣な雰囲気がビシビシと伝わって来る。

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論文、データベース、分子解析ソフトなどを駆使しつつ、分子とにらめっこしながらデザインを行う。

分子のデザインが決まったら次に行うのは、実際にその分子を合成することです。
実験室にはドラフトと呼ばれる、安全に化学反応を行うための実験台がたくさん並んでおり、このドラフトの中で目的の分子を合成していきます。
山東研究室では、一般に有機化学で対象とされる有機小分子のみでなく、上で挙げたような人工核酸や人工ペプチドといった生体分子の人工合成にも力を入れています。
それでは、実験室の様子を実際に覗いてみましょう。

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合成実験室にあるドラフトの様子。中にはたくさんの試薬や器具が並んでいる。ドラフトの透明な壁にはうっすらと分子デザインを考えている形跡が残る。

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ドラフトで合成中の人工ペプチド。真ん中に立つ容器に入った薄黄色の液体中で、ペプチドの構成要素であるアミノ酸が順番に付け足されていく。このように手動で生体分子を合成することで、天然には存在しない化合物を付け足したりすることができる。

 

IMG_6706こちらはDNAの合成機。本来は細胞の中で行われているDNAの合成を、人工的に行うことができる装置。意のままの配列のDNAを合成することができる。

 

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HPLCと呼ばれる、反応溶液の中から目的の化合物だけを取り出すための装置。目的の分子を合成することに成功しても、副産物などが混ざっていることがある。そういった場合には、この装置によって目的の分子のみを取り出す(精製と呼ばれる)ことができる。

このような形で、様々な分子が合成されています。
合成に成功したら、次に行うのはその化合物が狙った機能を持っているかどうかの評価です。
評価方法は狙う機能によって様々ですが、生体関連の分子である場合には、細胞や酵素(細胞の持つタンパク質の一種)や動物に対して作用させてその機能を見ることが多くあります。

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細胞培養器の中には、実験に使われる多くの細胞が並ぶ。

 

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細胞を凍結保存するためのタンク。中には液体窒素が充填されている。

 

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合成実験室と比べて簡素な見た目の生物実験室。実験棚には大量の試薬が並んでいる。ここでは細胞や酵素の機能についての実験を行ったり、細胞実験用の試薬調整などが行われている。

 

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実験机にはマイクロピペッター(微量の液を扱うための器具)が並ぶ。こちらはなんと0.1 µlまで扱えるもの。細胞やタンパク質は非常に小さいため、実験の際には非常に少ない量の溶液を扱う必要があるため。

ここまで「分子のデザイン」→「実際の合成」→「合成した分子の評価」という研究の流れを紹介してきたが、現実には一度で十分な機能を持つ化合物を作れることは多くはありません。「分子の評価」の結果をもとにもう一度「分子のデザイン」に戻り試行錯誤を繰り返すことで、より良い分子を作り出すことができるのです。

実際の研究内容について

ここからは、実際に山東研究室で行なわれている最先端の研究について紹介していきます。

はじめに紹介するのは、「ペプチド創薬」に関してです。
タンパク質は、アミノ酸と呼ばれる分子が幾つもつながってできています。ペプチドとは、タンパク質ほど大きくはないアミノ酸の集合体のことを指します。

・生体分子と結合できる為、薬剤として使用出来る。
・小さいため人工的に合成ができる。

と言った利点があるため、創薬において重要とされている分子です。
しかしながらこのペプチドには、

・体内に存在する、タンパク質を分解する酵素により分解されてしまう。
・細胞の膜を通り抜けにくいため、ターゲットにしたい分子に届きにくい。

というような問題もあります。そこで山東研究室では、このペプチドに対して人工アミノ酸を導入したり、普通とは少し異なる構造を導入することによる、ペプチドの利点を生かしつつ問題を克服した新たな人工ペプチド分子の開発に力を入れています。

人工ペプチドの実例としては、以下のようなペプトイドと呼ばれるものがあります。

ぺぷちど比較

ペプチドとペプトイドの比較。
基本的な構造は同じだが、
側鎖(その名の通り飛びてている部分)の位置が異なる。

このペプトイドは、通常のペプチドと少し構造が異なるためタンパク質を分解する酵素に認識されにくいという利点や、細胞の膜を通りやすいという利点があります。
ペプトイドを更に改良したり、また別のアプローチをとってみたり、それらを繰り返して新たな分子の開発を進められています。

次に紹介するのは、「生体分子イメージング用分子の開発」というものです。

我々の細胞の中では、タンパク質やDNAに代表されるたくさんの生体分子が働いています。ガンをはじめとする多くの疾患では、特定の生体分子の機能がおかしくなることが知られています。
そのため特定の生体分子の働きを可視化(イメージング)することが疾患の発見や治療に重要なのです。(*ここでのイメージングとは、生体内での分子の働きを何らかの方法で計測、観測することを指します)

ある酵素の働きをイメージングしたい場合、その酵素によって生じる反応がどれくらい起きてるかが分かれば良いことになります。例えばガンに関わるAPNと言う酵素は、下の図のような反応を起こす酵素です。

APN-

酵素APNのはたらき。青色のNH2基を緑色のOH基に変えるはたらきを持つ。

この酵素の働きをイメージングすることができれば、生体内のどこにどのくらいのガン細胞があるか、といったことがわかるようになり、疾患の早期発見へと繋げることができます。

実際のイメージングの手法としてよく用いられるのは核磁気共鳴という現象を利用したものです。病院での検査でよく使われるMRIは、この核磁気共鳴を検出する装置です。
ちなみにこちらが、研究でよく用いられる、その核磁気共鳴を検出し分子構造を解析するNMR装置です。

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核磁気共鳴を検出するNMR装置。核磁気共鳴を検知する為には非常に大きな磁場をかける必要があるため、装置には強磁場注意の警告が貼られている。

核磁気共鳴の原理に関しては省略しますが、この現象を利用する手法の中に、同位体(NMR装置で観測できるような印がついたもの)というものを利用するものがあります。
山東研究室では上の図で赤く示したC(炭素原子)に着目しました。この原子は、反応の前後でその環境が大きく変化しています(結合している分子が、NH2からOHに変わっています)。その環境変化を核磁気共鳴を利用して観測することで、どれくらい反応が起きているのかを知ることができます。
この赤いCを同位体に入れ替えた化合物を作ることで、核磁気共鳴による観測が可能となるのです。

APN

核磁気共鳴を利用した分子イメージング

山東研究室ではこのような形で、タンパク質などの生体分子の機能をイメージングできるような分子をデザイン、合成しています。

この他にも、山東研究室では様々な研究が行われています。
以前BuzzScienceで紹介した以下の記事も、実は山東研究室の研究内容です。
過去記事「細胞運命を自在に制御する、DNAアプタマーの可能性!」

終わりに

このように「Molecular Design for Next-Generation Chemical Biology」という理念のもと、様々な研究が行われています。

より詳しく山東研究室の研究が知りたいという方は、是非研究室HPも覗いてみてください。

余談ですが、研究室というのは大抵の場合それぞれホームページを持っています。
ホームページには研究理念や内容が詳細に書かれていることが多く、どんな研究がなされているのか?というのが分かるようになっています。これを機に、ぜひ色々な研究室のホームページを読んでいただき、研究室というものに興味を持って頂けると幸いです。

記事内で紹介しきれなかった写真はこちら!

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