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【上級】21世紀物理の革命!?「マジック・アングル」の実現

2018/08/24

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ついに発表された、「マジック・アングル」の実現と、それを使った超伝導の発見。(両方とも2018年3月に米MITのグループから報告)。2000年代から始まった二次元物質・二次元物理の研究はこれまでいくつかの記事(グラフェンの新機能開発二次元磁石)で取り上げてきましたが、この「マジック・アングル」にはその面白さが詰まっており、いま世界中で注目を集めています。
この発見のどこが世界中の注目を集めているのか、何が面白いのか?この記事で紹介します。

二次元物質の王様 - グラフェン -

今回紹介する「マジック・アングル」の実現は、グラフェンと呼ばれる物質を対象にした研究です。まず、このグラフェンがいったい何なのかを見ていきましょう。

グラフェンは、これまでいくつかの記事で紹介してきた「二次元物質」の一種で、紙のようにペラペラな形をしています。その薄さにして原子一個分!このような原子レベルで極薄の形のグラフェンの発見は全世界に衝撃を与え、発見者であるGeimは2010年にノーベル物理学賞を受賞しています。

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グラフェンは、炭素原子がハチの巣のようにならんでおり、ペラペラな形をしている。(画像はwikipediaより)

グラフェンは次世代を担う材料として最も注目されている物質の一つです。その理由は機械的な強度、伸縮性、熱伝導度、光吸収率の高さ、電子が非常に動きやすいことなど様々あります。このグラフェンはとても扱いやすく安価であることもあり、材料として組み込むことで、パソコンやスマホなどに使われる電子部品の性能が大幅に良くなることが期待されています。

話は変わって、「超伝導」と呼ばれる物理現象がありますが、この超伝導はこれまでグラフェンで見つかっていませんでした。超伝導とは、電子が集団として動ける特殊な状態のことで、電子が動きやすくなる極致とも言えます(別記事で解説)。この状態をグラフェンで実現することはグラフェンの発見以来ずっと世界中の研究者が目指してきましたが、成功した例はありませんでした。

マジック・アングル

さて、マジック・アングルの話に移りましょう。このマジックアングル=魔法の角度とは、ズバリ1.1°の角度を指しています。そして、この1.1°の角度だけずらしてグラフェンを重ねると、グラフェンの性質が劇的に変わったというのが今回の発見です。

性質が劇的に変わるとはどういうことなのでしょうか?なぜ、1.1°という微妙な角度なのでしょうか?実際に角度をつけて重ねてみましょう。
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グラフェン(上)を二枚用意して、5°だけ傾けて重ねてみる(下)

このように、わずかな角度をつけて重ねると、グラフェン本来の模様のほかに、より大きな六角形型の模様の濃淡が浮かび上がっているのが分かります。これはモアレ模様と呼ばれ、規則正しい同じ図形どうしをわずかに回して重ねると、このようなモアレ模様が生まれることが知られています。このように、「模様」が変わることによって何が大きく変わるのでしょうか?そのひとつが、グラフェンの中を動く電子の振る舞いです。

 電子のおしくらまんじゅう

すこしだけ回して重ねることで、グラフェンの「模様」が大きく変わりました。すると、その中を動く電子はその影響を大きく受けます。なぜなら、グラフェンのような原子一個分の厚さしかないものを重ねると、その中を動く電子はとなりのグラフェンの存在を感じるからです。そして、先ほどのモアレ模様の効果も合わさり、電子はとなりのグラフェンのほんのわずかな角度のずれを非常に敏感に感じ取るようになります。

これらの特別な事情を考えた結果、ある驚くべきことがわかりました。「グラフェンを1.1°だけ回して重ねた時に、その中を動ける電子の数が劇的に増える」という予想が導かれたのです。これが「マジック・アングル」における予想です。

そしてMITのPabloらのグループは、実際に二枚のグラフェンを1.05°だけ回して重ねることに成功しました。するとどうでしょう、「電気が流れなくなった」のです。

動ける電子が増えるという予想と、電子が流れていないという実験結果。いったい何が起こっているのでしょうか?答えは簡単です。「動ける電子が増えすぎた結果、電子同士が押し合いへし合いして、逆に電子が動けなくなった」のです。
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左のように電子が全くいない物質(絶縁体)では、電気が流れない。電気が流れる金属では、真ん中のように動ける電子がいる。
一方で、右のように動ける電子がたくさんい過ぎると、本来動けるはずの電子どうしが反発して固まってしまい、電気が流れなくなる

電子はどれもマイナスの電気を帯びているので、電子同士は反発しあいます。それでも、鉄や銅の中の電子たちは互いに押し合いながらも気にせず動けるので、電気をよく流します。グラフェンの電子たちも、もともとは互いのことを気にせず動けていたので、グラフェンはよく電気を流すことで有名でした。

しかし、「マジック・アングル」の重ね方をすることで、グラフェンの中の動けそうな電子の数が100倍、1000倍と劇的に増えた結果、それらが反発し合って逆に動けなくなったのです。これだけでも驚きですが、これを聞くと、「電気が流れやすい」というグラフェンのせっかくの長所がただ失われてしまっただけに見えます。しかし、「マジック・アングル」はここで終わりません。

マジック・アングルのその先 - 超伝導の達成 -

最初に、電気が流れやすいことで知られるグラフェンでも、これまで超伝導だけは実現できていなかったということを紹介しました。普通の超伝導は電気が良く流れる物質でよく見つかっているので、グラフェンでもどうにかして超伝導を起こせないかと多くの研究者が取り組みましたが、成功した例はなかったのです。

しかし、今回のマジック・アングルではその超伝導を実現させることに成功しました。もともと、「マジック・アングル」では電気が流れない(伝導が無い)わけですから、''超''伝導など起こるべくもありません。ここで、Pabloらのグループはさらにトランジスタの要領(別記事で解説)で刺激を加えてみました。するとどうでしょう。固まっていたたくさんの電子が動き始めて、超伝導が実現したのです。
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普通の超伝導と、「マジック・アングル」を使った超伝導のイメージ。普通の超伝導は電気が良く流れる物質(金属)の一部でおきるが、今回は電気を流さないものに刺激を加えることで超伝導が実現している。

 

一度超伝導の対極のような「電気が流れない」状態を経て、やっと発現したこの超伝導は、ふつうの超伝導とは全く異なったものであることが予想されています。このように、見つかったばかりの「マジック・アングル」の超伝導ですが、わからないこと、これからの可能性にあふれています。これからの「マジック・アングル」の行く末にぜひ注目してみてください。

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