nobel

【2018年ノーベル医学生理学賞 解説記事】がん治療に革新をもたらした「免疫チェックポイントの発見」とは?

2018/10/03

Pocket
LINEで送る

2018年のノーベル医学生理学賞は、免疫チェックポイントに関わるタンパク質PD-1及びCTLA-4の発見を行った本庶特別教授とアリソン教授が受賞しました。

がん治療に関する画期的な発見とされるPD-1とCTLA-4、今回はその発見の意義についてわかりやすく紹介します。
(受賞の対象となった発見の原著論文はこちら。

博士、今年もノーベル賞が発表されたね!


ほほ、そうじゃな。今年のノーベル医学生理学賞はついに「免疫チェックポイントに関する研究」が受賞したな。
業界の中で昔から絶対に受賞すると言われていた研究だけに、注目が集まっておるのう。


免疫チェックポイント、って言われてもピンとこないな。
ニュースではがんの画期的な治療法の開発に役立った、って紹介されているみたいだけど。


今回の受賞理由を知る前に、まずはがんについてよく知る必要があるな。
君は"がん"とは何か知ってるかい?


むむむ、そう言われると...。悪性腫瘍って言葉をたまに聞くけど、それと同じもの?


その通りじゃよ。がん、すなわち悪性腫瘍というのはな、増えすぎてしまった細胞の集まりなんじゃ。


細胞の集まり?じゃあ悪性腫瘍であるがんは、悪い細胞の集まりってこと...?


まさしくその通りじゃよ。では悪い細胞とは何かというと、調節が効かずにどんどん増えてしまうような細胞のことなんじゃ。
普通、私たちの身体の中は細胞が生まれて死んでを繰り返すことで保たれている。しかしがんになった細胞は、死ぬことなくどんどん増え続け、あちこちと広がり続けてしまうんじゃ。


なるほど、がんは増えすぎちゃう細胞なのか。


PD0
がんになった細胞は、身体の中で見境なく増えてしまう。

うむ。私たちの身体の中の細胞が増えていく時に遺伝子に異常が起きるとがんになってしまうことがあるんじゃ。
だから、がん細胞は私たちの身体の中で常に出来続けているものでもあるのじゃ。


ええっ!?そうなの?


まあそう慌てることはない。通常の状態ではがんに侵されることはまずないのじゃ。
なぜなら私たちの身体の免疫機構が働いてがんを倒してくれるからじゃ。


ついに免疫って言葉が出てきたね!


私たちの身体にはT細胞という免疫細胞がいる。
この細胞ががんになった細胞を見つけてやっつけることで、私たちの身体は守られているんじゃ。


PD1
T細胞はがん細胞を見つけ出し、やっつける

なるほど、やっぱり免疫って大事なんだね。


しかし、がんも簡単にやられてるだけではない。
なんと、T細胞に倒されない方法を編み出しているのじゃ。
それが"免疫チェックポイント"を利用したものなのじゃ。


いよいよ核心に近づいてきたね。一体どんな方法なの?


T細胞の表面には、T細胞を弱めるためのスイッチが存在する。これは免疫の暴走を防ぐための免疫チェックポイントという現象に関わるブレーキのような役割を果たすものじゃ。このスイッチこそが今回話題になっているPD-1CTLA-4という分子じゃ。
なんとがん細胞はこのブレーキを踏んでしまうことで、T細胞を弱めてしてしまうのじゃ。


PD2
がん細胞はT細胞のブレーキを押すことで生き延びる

今回のノーベル賞は、このブレーキ機構の発見と、そのブレーキがかからないようにする仕組みの開発に対して贈られている。


ブレーキがかからないようにするのは、どうしたらいいの?


ブレーキを押されないように、先にフタをしてしまうんじゃよ。


PD3
ブレーキにふたをしてがん細胞に押されないようにする

フタをしちゃえばがんはブレーキを押せなくなるんだね。
そうすると僕たちの免疫細胞がちゃんとがんをやっつけられるようになるってことだね!


その通り。この発見はがん治療に大きな革新を与えたんじゃ。
最近話題になっているがん免疫療法というものでは、抗体という分子でこのブレーキにフタをすることで、身体の中の免疫細胞がきちんとがんを倒せるようにしているのじゃ。
この治療法は原理上ほぼすべてのがんに効く非常に画期的な治療でな。がん治療に関する多大な貢献をした研究なのじゃ。


なるほど、それでノーベル賞をもらえたんだね。


この発見のおかげで、日本の小野薬品が世界で初めて抗PD-1抗体という薬を開発したんじゃ。この薬はPD-1の発見から22年経った2014年に承認され、世界から非常に注目されている。
発見自体は昔のことじゃが、今この瞬間も多くの研究がなされているのじゃ。


今後のがん治療にますます期待だね!


-Column, pd1, ノーベル賞, 医学・身体科学, 生物学

  関連記事

%e8%9b%87%e8%b6%b3
ヘビに足がない原因が特定される!?

蛇足はなぜなくなったのか? 遺伝子的にヘビにはなぜ足がないのかということに対して、アメリカのローレンス・バークレー研究所を中心に「ヘビの進化の過程における四肢関 ...

Young muscular man lifting weights over dark background
筋肉にも記憶が⁉若年期の運動が老後の健康を支える⁉

一度鍛えたことのある筋肉は、鍛えるのをやめて縮小してしまっても、鍛えたことのない筋肉より肥大化しやすいという特徴があるということが知られています。ところが、この ...

photo credit: National Institutes of Health (NIH) Gene Editing via photopin (license)
改造細胞で病気を治す!?

CART療法と呼ばれる、遺伝子改変した免疫細胞を用いて病気を治す療法が、近年注目されています。実用化に向けて様々な研究が行われていますが、今回はその中から、筆者 ...

nobel
2016年のノーベル物理学賞は物質における"トポロジカル"な理論!?

2016年のノーベル物理学賞は「物質におけるトポロジカル理論」 2016年10月4日、ノーベル物理学賞の受賞者が発表されました。受賞したのはDavid J. T ...

体内時計2
体内時計を電気で操る!?

体内時計は、電気でコントロールすることができる! 夜眠れなかったり、逆に昼間に眠くなったりすることはありませんか?? もしかしたら、その原因は「体内時計の乱れ」 ...

crocheting-1479210_1920
自然界に存在しないタンパク質の「デザイン」

「タンパク質」と聞くと、は何を思い浮かべるでしょうか。 私たちの体を作る栄養素の1つとか、筋トレをする人はプロテインを想像するでしょうか。 タンパク質は生物が生 ...

neurons-440660_960_720
難病から治る病気に!!ALSの治療法開発

ALS「いつかだれかが私を倒すだろう」 大人気マンガ宇宙兄弟でも取り上げられている難病ALSに対する治療法が東京大学より報告されました。 少し前に世界的にアイス ...

nobel-prize-1356450_960_720
【2018年ノーベル物理学賞 解説記事】「光ピンセット」とは?

2018年のノーベル物理学賞は『レーザ物理の分野における革新的な発明』という功績を称えられ、Arthur Ashkin・Gérard Mourou・Donna ...

cancer-389921_960_720
がんを早期発見!ーがんを見分けるナノマシン造影剤ー

見える、見えるぞ!私にも敵が見える!! 今まで見えなかったがんも見えるようになった、すごい成果が出ました。 なんと、「がんを見分けて」「がんの周りだけで造影剤を ...

nobel
【2018年ノーベル物理学賞 解説記事】レーシックにも使われている「超短パルスレーザ」とは?

2018年のノーベル物理学賞は『レーザ物理の分野における革新的な発明』という功績を称えられ、Arthur Ashkin・Gérard Mourou・Donna ...