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【2018年ノーベル化学賞 解説記事】タンパク質の人工的な進化とは?

2018/11/11

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2018年のノーベル化学賞は、「指向性進化(Directed Evolution)」「ファージディスプレイ法」という、タンパク質の人工的な進化に関する方法の開発に対して贈られました。

2つの方法に共通する「タンパク質の進化」とは何なのか、そしてどのようにそれが実現されたのかについて解説します。

博士、ノーベル賞のニュースで言っていたんだけど、「タンパク質を進化させる」ってどういうことなの?


私たちの身体の中にあるタンパク質は、いろいろな機能を持っている。
その機能をより強くしたタンパク質を作る、というのがタンパク質を進化させるということじゃ。


ふーん。でもタンパク質が進化するって、あんまりイメージ沸かないなあ。
進化って聞くと、ピカチュウがライチュウに進化するとか、そういうのを思い浮かべるよ。


ふむ。タンパク質の進化の話をする前に、そもそも「進化とは何か」を話した方がよさそうじゃな。
進化の話をする時によく出てくる例じゃが、君はなんでキリンの首が長いのか知っているかね?


それなら本で読んだことがあるよ。
高い場所の草が食べれるとか、水を飲みやすいとか、脳の血流がどうとか、いろいろな説があるみたい。どれが本当なのかはよくわかんなかったや。


ほう、よく勉強しておるの。
でも実のところ、キリンの首が長い理由についてはよくわかっておらんのだ。


ええっ。
じゃあなんでそんなクイズを出したの?


理由は何であれ大事なのは、「首が長い方が生き残りやすい(首が短い方が死にやすい)」という環境が存在したということなのじゃ。
この環境のせいで首の長いキリンほど生き残る確率が上がったことで、キリンの首は長くなっていったんじゃ。


ふうん。進化って結果論なんだね。


まさしくそうじゃ。
進化というのは、「〜な方が〜しやすい」という環境選択圧と呼ばれる)の中で、その〜しやすいものたちがどんどん優勢になっていくことで生じるのじゃ。


なるほどね、よくわかったよ。


進化の話がわかったところで、タンパク質の進化の話に戻ろう。
タンパク質がアミノ酸の集まりという話を何度かしたことがあるだろう?
アミノ酸の並び方で、タンパク質の機能やその強さは決まるのじゃ。


Protein_folding_schematic
タンパク質はアミノ酸から出来ている

うんうん。このあたりは大分わかってきたよ。


あるタンパク質があったときに、そのアミノ酸の並び方を少しいじってやると、その機能が強まったり弱まったりすることが知られている。
何種類もの並び方を試して狙った機能や強い機能を持つタンパク質を見つけていく方法というのが、今回ノーベル賞を受賞したタンパク質を進化させるものなのじゃ。


さっき進化には「〜な方が〜しやすい」が大事って話してたよね。
タンパク質の場合はどうするの?


タンパク質の場合も同じじゃ。「目的の機能が強いほど生き残りやすいという環境」を作ってやるんじゃ。
例えばある標的Aに強くくっつくタンパク質が欲しい場合、標的Aにくっつくほど生き残りやすい、というように人工的な選択圧をかけてやるんじゃよ。

さて、ここからは実際にノーベル賞の対象となった方法が、どのようにタンパク質を進化させるのかを説明していくぞ。


よろしく博士!


まずは「ファージディスプレイ」という方法についてじゃ。
これは、ある標的に強くくっつくタンパク質を見つけるために作られた方法じゃ。

タンパク質を進化させるためには、まずはじめにアミノ酸の並び方の違うたくさんのタンパク質を用意する必要がある。このたくさんのそれぞれ違うタンパク質の集合はライブラリと呼ばれ、タンパク質進化のために非常に重要なものなのじゃ。さっきのキリンの例えを使うなら、首の長さなどの色々な特徴が異なるキリンの群れのようなものじゃ。

色んな特徴を持つキリンを実際に用意するのは難しいが、タンパク質の場合は遺伝子工学技術の発展のおかげで用意することができる。
ファージディスプレイでは、タンパク質をファージと呼ばれる物質にぶら下げることで、ライブラリを作っている。
(作り方に関しては"発展:なぜファージを使う?" 参照)

 

PD1

ある標的に強くくっつくタンパク質を見つけるには、まず標的とこのライブラリを出会わせる必要がある。そうすると、幾つかのタンパク質が標的にくっつく。

PD2

ここからくっつかなかったものを洗い流し、その後くっついたものだけを回収することで、ライブラリの中から標的にくっつくものだけを選び出すことができる。

この新しいライブラリで同じ手順を繰り返し、何度も何度もこの操作を行うことで、最終的に非常に強くくっつくタンパク質を選び出すことができるのじゃ。

PD3

この方法がファージディスプレイと呼ばれるのは、タンパク質ライブラリをファージの表面に提示(ディスプレイ)しているからなんじゃ。

発展:なぜファージを使う?


ふむふむ。もう一つの「Directed Evolutionによる酵素進化」っていうのは?


まず、酵素というのはタンパク質の一種でな、何らかの化学反応を手助けするという働きを持っている。
「Directed Evolution」は、ある機能を持った(または強化した)酵素を作り出すことを目的とした方法じゃ。

基本的には先ほどと同じく、「目的の機能を持ったタンパク質を持った細胞が生き残りやすくなる環境」におくことで進化を起こすのじゃ。
この環境をうまくデザインしてやることがこの研究の醍醐味でな。
これまで多くの人工酵素が開発されてきておるのじゃ。


なるほど、よくわかったよ。
でも、タンパク質の進化ってノーベル賞を取るほど重要なことなの?


ものすごく重要じゃよ。
例えばファージディスプレイは、抗体というタンパク質を使った薬剤の開発において非常に重宝されている。この医療への応用も今回の受賞対象になっておるの。ファージディスプレイによって発見された薬は数多くあるのじゃ。
Directed Evolutinによる人工酵素の開発は、新しい機能を持ったタンパク質や細胞を作り出すことにつながるんじゃ。この手法の特に良いところは、タンパク質の機能自体を進化させることじゃな。ファージディスプレイのような方法では、くっつくことは非常に得意でも、何の機能も発揮しないものがたくさん生まれてきてしまうことが問題になっている。


なるほど、タンパク質の改良って色々と役に立つんだね。


最近ではコンピュターシミュレーションを使って一からタンパク質を作るという研究もが行なわれたりもしているのう。研究者たちは様々な手法でタンパク質という生命由来の分子の限界に挑戦しておるのじゃ。
生物由来の素材で一体どこまでできるのか、想像は止まらないのう。


-Column, Research, コラム, ノーベル賞, 化学

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