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【上級】マヨラナ粒子の兆候を発見!? そもそもマヨラナ粒子とは?

2019/08/01

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マヨラナ粒子とは

今回紹介する論文はマヨラナ粒子の兆候を捉えた論文です。ではマヨラナ粒子とは何でしょうか。これは、Ettore Majorana氏によって存在が予言された粒子の一種で、粒子と反粒子が等しいという性質を持ちます。近年では、固体物理中でこのマヨラナ粒子に相当する状態が出現することが分かり、これがエニオンと呼ばれる粒子の1種であることが分かりました。エニオンとは2次元空間でのみ存在が許される粒子です。通常粒子はフェルミオン(電子など)とボソン(光子など)の2種類に分かれますが、エニオンはこのどちらにも属さない特別な粒子です。このエニオンの中には、空間的に動かすことによって量子計算を実行し、ノイズに強い量子コンピュータへ応用できるものがあり、マヨラナ粒子はそのような粒子の1種であることから固体中でこのマヨラナ粒子を実現するための研究が盛んにおこなわれています。

マヨラナ粒子(●)を動かすと量子コンピュータになる。

マヨラナ粒子()の位置関係を空間的に変化させることで量子計算を実行でき、量子コンピュータとなる。

マヨラナ粒子はどこに現れるのか

マヨラナ粒子を出現させる方法は数多く提案されていますが、大別して2種類あり1つはKitaevスピン液体と呼ばれる状態、もう1つはスピンレスp波と呼ばれる超伝導の状態、それぞれの中に出現するマヨラナ粒子に相当する状態を実現させようという試みが主なものです。スピンとは直観的には電子の時点の方向に対応する自由度のことを言います。Kitaevスピン液体とは、簡単に言えば、"スピンが固体の状態=磁石となった状態"、"スピンが気体の状態=磁石でない状態"とすると、固体・気体に対する液体に相当するような状態が磁石か磁石でないかについても言えるという状態です。Kitaevスピン液体については、最近になってその兆候ではないかという研究が報告されるようになっています。また、もう1つのスピンレスp波と呼ばれる超伝導体は簡単に言えば普通の超伝導体(s波超伝導体と呼ばれる)とはスピンの状態が異なっている超伝導体のことです。以降ではスピンレスp波超伝導において出現するマヨラナ粒子の状態についてのみ考えます。スピンレスp波超伝導体を実現させる手法の多くは超伝導体と何か別の物質(半導体や磁石)を接合させるという手段です。この方法でマヨラナ粒子を出現させるには、超伝導体を他の物質に綺麗に張り付けなければならないなど、様々な問題があります。そんな中2018年に登場したのがFe(TeSe)と呼ばれる鉄を使った超伝導体です。この超伝導体は単体でスピンレスp波超伝導体となり、外部から磁束を侵入させると、その磁束の中心にマヨラナ粒子を出現させることができるとされ、単独の物質でマヨラナ粒子を出現させることができるために大きな注目を集めています。

今回の方法と他の方法の比較。今回の方法では超伝導体だけを用意して磁場をかければマヨラナ粒子が出現する。

今回の方法と他の方法の比較。今回の方法では超伝導体だけを用意して磁場をかければ、超伝導体に侵入した磁束()の中心にマヨラナ粒子が出現する。

マヨラナ粒子のSTMによる観測

今回マヨラナ粒子の兆候を捉えるのに用いられたのがSTM(Scanning Tunneling Microscope)です。 STMでは見たいものの表面に針を近づけ、針から電流を流した時の応答を見ることで、粒子の存在などを観測することができます。 固体中に出現するマヨラナ粒子の特徴の1つとして、エネルギーが必ず0になっているというものがあります。STMはどれだけのエネルギーを持った粒子がどのくらい存在しているかを判別できるため、この特徴を捉えることができるわけです。今回の論文以前でもFe(TeSe)中の磁束をSTMで見たという報告はありましたが、マヨラナ粒子が見えるというものと見えないというものがあり、議論が続いていました。今回の論文では、装置を工夫することで、従来と比べて6分の1程度の温度での測定をおこなっています。その結果、これまでと比べて10倍以上の分解能で粒子のエネルギー測定が可能になり、その上でマヨラナ粒子の兆候を見ることができたというわけです。これによって今までよりも高い確度でエネルギーが0の状態の粒子、つまりマヨラナ粒子が出現しているといえます。加えて、今回の実験では、磁束を侵入させるために外部から印加する磁場の強さを変えると、磁束のうちマヨラナ粒子を持つものの割合を変化させることができる、ということも示されました。このことは、マヨラナ粒子が磁場によって制御できる可能性を示しており、量子コンピュータを作るうえでも重要になる発見です。

STMの直観的説明。金属の針を先端から電流を流しながら動かすと粒子の存在するところで信号が得られるとともに、この粒子がどのくらいのエネルギーを持っているのかもわかる。

STMの直観的説明。金属の針を先端から電流を流しながら動かすと粒子の存在するところで信号が得られるとともに、この粒子がどのくらいのエネルギーを持っているのかもわかる。

外からかける磁場の強さを変えると出現するマヨラナ粒子の数が変化する。

外からかける磁場の強さを変えると出現するマヨラナ粒子の数が変化する。

マヨラナ粒子は存在する?

では、今回の結果からマヨラナ粒子が存在していると言えるのでしょうか。答えは残念ながらNoです。なぜなら今回見られたのはマヨラナ粒子が示す兆候の1つに過ぎず、これだけでマヨラナ粒子の存在を断定することはできません。マヨラナ粒子の存在を断定するためには、マヨラナ粒子が存在する場合、STMで見えた0エネルギーの信号が決まった値しか取らないという特徴を捉える必要があります。このように決まった値のみを取ることを量子化と呼び、量子化された0エネルギー状態を見ることが少なくともマヨラナ粒子の実在を断定するには必要となります。他の検出方法として、ジョセフソン接合と呼ばれる、超伝導体を用いた特殊な構造を作って検出する方法もあります。しかしながら、このような実験を行っても実験結果がマヨラナ粒子以外の理由でも説明できてしまうということも指摘されています。そこで最近言われているのは、マヨラナ粒子を使って量子コンピュータを作ることができれば、(正確には量子コンピュータを実現する上で必要な操作の1種を実現できれば)今まで見ていた粒子が確かにマヨラナ粒子であるといえるという考え方です。量子コンピュータを作るためにマヨラナ粒子を探索していたのに、マヨラナ粒子の存在を断定するために量子コンピュータを作る必要があるという何ともトートロジーな状況になってしまっていますね。

マヨラナ粒子の操作

では仮に今回見られたものが確かにマヨラナ粒子であるとして、量子コンピュータを作るにはどうすればよいでしょうか。そのためにはマヨラナ粒子1つ1つを操作する必要があります。今回の研究結果で示された、磁場によるマヨラナ粒子の存在割合の調整はそのような操作手法の1つとなるかもしれません。ほかにもSTMをうまく使うことで、磁束1つ1つを動かすことができると報告されており、これを用いてもマヨラナ粒子を操作できる可能性があります。いずれにせよ、今後の研究が待たれるところです。

最後に

今回はマヨラナ粒子の実験について紹介しました。マヨラナ粒子の研究はセンセーショナルなため、プレスリリースで見る機会も多いかもしれません。今回の記事で説明したように、マヨラナ粒子は出現方法にも検出方法にも様々な種類があります。どんな手法で発現・検出されたのかに注目してみると面白いかもしれません。

-マヨラナ粒子, 上級

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