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【上級】“がん”を検知するナノマシン造影剤の開発

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2016年5月東大、東工大、ナノ医療イノベーションセンターからなる研究グループからがんの悪性度を検知する『ナノマシン造影剤』を開発という発表がありました。

それではこの研究について見ていきましょう。

概要

 MRIは、放射線を使わず、磁石により体内を画像化する体に優しい診断装置です。日本における死因の第1位である“がん”のMRI診断においては、がんの深部まで造影剤が届かないことや初期の小さながんの検出が難しいという問題があります。これらの問題は転移がんを検出できずに見逃してしまうことの原因にもなります。これら問題を改善するため、感度の向上、がん組織のみを検出する特異性の向上が望まれており、そのための技術開発が世界中で行われています。

 これらを達成するために、生体に対して安全で、がん組織環境に応答して溶解する「リン酸カルシウムナノ粒子」にMRI造影効果を有するマンガン造影剤を搭載したナノマシン造影剤を開発しました。本開発により、悪性度の高いがん細胞が潜む低酸素領域を、放射線被ばくなく、高い解像度で三次元的に解析する手段が得られ、今後、がんの性質を見極める高度な診断や、効果を確認しながら治療や創薬を進める新しい医療の形成が期待できます。

MRIがん診断

 MRIとは、磁場を与えて体の中にある原子(主に水素原子)に共鳴現象を起こさせて反応する信号を画像化する方法です。実際の臨床においては、金属原子であるガドリニウム(Gd)を含む造影剤を患者に投与し、そのGdの共鳴現象を観察することで感度を上げて、がん組織を検出します。しかし、がん組織は周辺の正常組織と非常に似通っているため、がん組織にのみ造影剤を集積させることは容易ではありません。JPOXMLDOC01-appb-C000005

 発症初期のがん組織や転移がんなどはサイズが小さく、多くの造影剤が集積できないため、検出が困難となっています。そのため、少量でも高感度で信号を発信し、かつ、がん組織にのみ集積する造影剤の開発が求められています。

ナノマシン造影剤

 そこで研究チームは、生体に対して安全で、がん組織環境に応答して溶解する「リン酸カルシウムナノ粒子」にMRI造影効果を有するマンガン造影剤を搭載したナノマシン造影剤を開発しました。このナノマシン造影剤は、造影剤を内包した内核が、生体適合性に優れた高分子材料の外殻で覆われています。ナノマシン造影剤は、血流中の環境(pH 7.4)では安定ですが、腫瘍内の低pH(pH 6.5-6.7)においてpHに応じてマンガン造影剤を放出します。加えて、ナノ粒子から放出したマンガン造影剤が、がん組織でのタンパク質と結合することによって、信号が約7倍に増幅する性質があります。これらの結果より、ナノマシン造影剤は、腫瘍の内部のpH(6.5-6.7)の僅かな変化に応答して、MRI信号を変化させる特性を有するものと研究チームは考えました。

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ナノマシン造影剤によるがん移植マウスの診断

 ナノマシン造影剤をがん移植モデルマウスに投与し、MRIを行ったところ、投与30分で腫瘍全体が造影され、時間の経過とともに腫瘍中心部の信号強度が増大することが確認されました。このMRI信号強度の変化は、臨床で広く利用されているガドリニウムイオンの造影剤による信号強度変化よりもはるかに大きく、ナノマシン造影剤の固形がんのイメージングにおける有用性が示されました。さらに、このナノマシン造影剤をわずか1.5mmの小さな大腸がんの肝臓への転移モデルマウスにおいてMRIで計測したところ、ガドリニウムイオンの造影剤よりも優れた検出力を示すことが明らかになりました。さらに、抗がん剤治療や放射線治療に対して抵抗性を示すがんの深部の診断にも成功しています。現在の医療では、がん内部に低酸素領域を持つかどうかを調べることは一般的ではなく、検査法も放射線被ばくを伴う解像度の低い方法しかありませんでした。

 本開発により、悪性度の高いがん細胞が潜む低酸素領域を、放射線被ばくなく、高い解像度で三次元的に解析する手段が得られ、今後、がんの性質を見極める高度な診断や、効果を確認しながら治療や創薬を進める新しい医療の形成が期待できます。ナノマシン造影剤は「いつでも、どこでも、だれでも」利用でき、病変部位の検出の高感度化と診断情報の高度化を可能にする革新的MRI造影剤として今後の展開が期待されます。

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