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【上級】量子コンピュータへの応用も?“半導体量子ドット”の拡張に成功

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先日、東京大学と理化学研究所のグループから量子コンピュータとしての応用も考えられている量子ドットの拡張についての研究成果が発表されました(論文)。
ここではその研究について説明します。

概要

物質を構成する粒子である陽子中性子そして電子。その中でも電子は電流の元として私たちの身の回りの電荷製品やパソコンで用いられています。しかし常に動き回っているため電子の本来の性質を調べることは非常に難しいと考えられていました。しかし量子ドットと呼ばれるものをもちいることで電子を捕獲し、その性質を研究することが容易になりました。

さらに現在では電子の性質を活かし、量子コンピュータとしての応用も考えられています。その実現のためこの研究では量子ドットが5つ連なった5重量子ドットの作製を行い、その形成に成功しました。これにより量子ドットの更なる拡張と、量子ドットを用いた量子コンピュータの実現に期待がもたれています。

1.量子ドット

本来、例えば金属や半導体などの中などでは、電子は固体中を自由に動き回っています。さらに電子は周囲の電子とも影響しあうため、電子1個の性質を調べることは困難でした。

Fig1 電子1個を隔離することで電子そのものの性質を調べることのできる”量子ドット”

それに対してここで紹介される”量子ドット”は、電子を周囲の電子から隔離することで電子1個の性質を調べ、また電子に様々な操作を行うことも可能になります。電子のような極小さな粒子は「量子力学」と呼ばれる法則に支配され、この小さな粒子を閉じ込める小さな“ドット(点)”、という意味でこの系は「量子ドット」と呼ばれています。

2. どうやって電子を閉じ込めるのか

本研究では半導体を用いた量子ドットを用いており、2種類の異なる閉じ込めによって量子ドットを形成しています。まず、種類の異なる半導体が層状に重なった特殊な構造を持った半導体を用いています。この半導体内では電子は半導体の境界面ではまるで”気体”のように自由に運動できますが、それ以外の方向には運動できないようになっています。このことからこの電子のことを「2次元電子気体」と呼びます。

Fig22次元電子気体とこれを用いた”横型”半導体量子ドット

電子を閉じ込めるにはこの2次元電子気体をさらに2方向閉じ込めることになります。そのためにこの半導体の表面に金属でできた電極を設置し、電極に負の電圧をかけます。それによってその下の2次元電子気体の電子は電子間に働く斥力によって追い出されることになります。(空乏化といいます)。

この特徴から、半導体表面にある1点を囲むように電極を設置し、電圧をかけることで2次元電子気体の1部を切り取り、電子を1点に閉じ込めた量子ドット構造を作ることが可能になるのです。

3.量子コンピュータとしての応用へ

周囲の電子などから隔離された電子は量子力学的な効果を観測する良い対象とされ、その研究がなされています。それと同時に特性を活かして量子コンピュータとして応用することも考えられています。

量子コンピュータ、と効くとはるか未来かSFの中での話のように聞こえるかもしれませんが、5年前にカナダのD-Wave Systemsが「世界初の商用量子コンピュータ」とされるD-Wave Oneを発売し、話題となったことを覚えている人もいるのではないでしょうか。またつい先々月にはIBMでもインターネットから誰でも「5量子ビットの量子コンピュータ」にアクセスできるサービスも開始されました。これらの量子コンピュータでは今回紹介したものとは異なるシステムを採用していますが、今回紹介した電子を用いた量子コンピュータも着実に量子コンピュータの実現に向けて研究が進んでいます。

IBM_QCCThe IBM Quantum Experienceはネットから「量子コンピュータ」にアクセスできるサービス(写真提供:IBM)

IBM Quantum Experienceでは量子ドットとは異なるシステムを量子コンピュータに用いていますが、量子ドット内に閉じ込められた電子も量子コンピュータに用いることができる性質を持ち、実際に量子コンピュータとして操作するのに必要な操作などについて実証されており、「量子ドットを使った量子コンピュータ」の実現に向けて研究が進んでいます。

 

4.さらに”拡張”された量子ドットへ

その一方で本格的な量子コンピュータを動かすには数千もの”量子ビット”と呼ばれる実際に計算を行う素子が必要になります。量子ドットを用いる量子コンピュータでは、量子ドットには行った電子1個がこの量子ビット1個に相当します。つまり、量子コンピュータを実際に動かすには数千もの量子ドットを同時に動作させる必要があるのです。

そこで量子ドットの研究では複数の量子ドットを繋げた構造の作製が続けられてきました。そして今回の研究では量子ドットをどんどんと繋げ、”拡張”していくのに適した構造が考案され、その構造を用いた5重量子ドットが作製されました。

Fig4-5電子溜めは2~3個の量子ドットまでしか電子を入れ替えられない
2~3ドットに付き1つの割合で電子溜めを設置することで問題は解決

量子ドットでは電子が周囲から隔離されていますが、実際には測定ごとに内部の電子を入れ替えることが必要となります。そのため、一部の量子ドットのみ外部の二次元電子気体(電子溜め)と結合しています。従来までの形状では両端の量子ドットのみが電子溜めと結合していたため、より多くの量子ドットが並んだ系では電子の入れ替えに難点がありました。そこで両端だけでなく、中央の量子ドットにも電子溜めを設置することで電子の入れ替えを容易にすることが可能となりました。

Fig4-6

また量子ドット内の電子の数を数えるためのセンサー、電荷計と呼ばれる構造も1つですべてのドットの電子数を数え、また見分けることは技術的に難しいとされていました。そこで複数の電荷計を使い、3つの量子ドットに付き1つの電荷計を分担させる

この2つの工夫を取り入れた構造の利点は、さらに拡張した多重量子ドットでも同様に用いることができる点であり、この基本構造を繰り返し用いることでより多くの量子ドットが結合した多重量子ドットの作製も可能になりました。これによって、量子ドットを用いた量子コンピュータの実現に向けた研究がより進むのではないでしょうか。

Fig4-7つ・な・げ・て・み・た・い
同様の構造を繰り返し用いることで量子ドットをどんどんと増やしていける

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