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【上級】固体中の創発モノポールの制御に成功

2016/07/01

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先日、東京大学と理化学研究所のグループが
固体中のモノポールの生成消滅過程とそれによる電気磁気効果
に関する論文を発表しました。

プレスリリース

今回はこの研究について…

 

モノポールって?

モノポールとは、磁石のN極、またはS極が単独で存在しているものを指します。

少なくとも現在の物理学ではモノポールは発見されておらず、高校や大学で習う電磁気学でもモノポールは存在しないものとされています。

monopole

仮にモノポールが存在したとすると、モノポールからは放射状に磁場(磁力線)が出ることになります。

すなわちモノポールは磁場の湧き出しを表しているのです。

逆にS極だけのモノポール(アンチモノポールと呼ばれています。)は磁場の吸い込みを表します。

 

固体中の磁場のはたらき

今回の研究対象である固体中のモノポールについて説明する前に、固体中での磁場の働きについて考えてみましょう。

固体中での磁場の効果と言えば、電子の運動をローレンツ力によって曲げてしまうことです。

これによって電圧をかけた方向と垂直に電流が流れる「ホール効果」が起こります。
lorentzHall

しかし、固体中では電子の軌道を曲げることができるのは実は磁場だけではありません。

例えば鉄やマンガンなどの磁石では磁化(磁石の強さの度合い)の存在により磁場をかけなくてもホール効果が起こることが古くから知られています。

他にも“ねじれ” を持つ磁気構造が存在すると
きや、鉄などの磁性を持つ不純物が固体に混入したときなどにもホール効果が起こることがわかっています。

 

一般に磁場なしで起こるこのようなホール効果のことを「異常ホール効果」と呼んでいます。

磁化や磁気構造、磁性不純物が有効的に磁場として働き、電子を曲げてしまうのです。

 

このように、電子を曲げてしまう効果を全て有効磁場という言葉で統一的に扱うことができます。

 

MnGe中のモノポール

MnGeという物質は特殊な磁石の一種であり、ある条件下ではヘッジホッグ(はりねずみ)型と呼ばれる磁気構造を示します。

この磁気構造は特徴的な“ねじれ”を持っており、すなわち有効磁場を生み出します。

この時の有効磁場の向きを理論的に描いてみると、上で描いたモノポールが生み出す磁場と同じ形をしていることが知られているのです。

すなわち、本研究中のモノポールは真のモノポールではなく、「固体中で、モノポールと同じ形の有効磁場を生み出す構造」であったということです。

これがMnGe中に見つかったモノポールの正体でありまして、真のモノポールと区別するために創発モノポール(emergent monopole)と呼ばれています。

今回の研究では、この創発モノポールが温度変化や磁場印加によって生成消滅していく過程を制御し、ということだったのでした。

 

創発モノポール...?

ではそのようなモノポールに見えるだけの創発モノポールを制御できると何がうれしいのでしょうか。
まず第一に電子制御への応用が考えられます。

創発モノポールは、電子の軌跡を(本物のモノポールと同じよう形に)曲げることができます。

これによって今まで不可能であった方法で電子の動きを制御することが可能となり、新規デバイスの開発へつながるかもしれません。

実際に今回の研究では、モノポールとアンチモノポールが衝突し、対消滅する瞬間に抵抗値や弾性の大きな変化が確認されていて、さらなる応用可能性が期待されます。

 

第二に、真のモノポール探索に向けてのヒントを得ることが可能になるかもしれません。

最初に述べた通り、真の意味でのモノポールはまだ見つかっておらず、今でも多くの素粒子物理学者が探索を続けています。

モノポールの性質を固体中で調べることは、その探索にヒントを与えてくれるかもしれません。

 

固体物理学×素粒子物理学

実は近年の固体物理学では、マヨラナ粒子やヒッグス粒子、エニオンやモノポールのように素粒子物理学上の粒子と同じ性質を持つ固体中の構造が注目を集めていて、創発モノポールはその一例になっています。

この分野横断的な研究領域は、電子制御への応用や、素粒子物理の固体中でのシミュレーションなどを目指して広がりを見せつつあり、両分野の交流が促進されているのです。

conversation

かくいう我々執筆者陣は化学、物理、材料、電気など多くの分野から学生が集まっています。

このブログを通じて異分野の研究を分かりやすく伝えあうことで、我々の中からこういったブレイクスルーが生まれるかもしれません…!

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-Monopole, 上級

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